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#2 まだ、おったん?

よく朝、雨戸を開けたら外は快晴!
ビュウティホー・サンデイッ!
あの雨はほんまやったんかなぁって思うぐらい。
昨日の夜中のことも夢のような気がする。

玄関で眠ってしもうたオカンを引きずるようにして、とりあえず、布団の中にほりこんだ。
上がり框で団子虫のように丸まってた捨て男には、毛布だけひっかけといた。

夜中に変に起きたせいか、あたしまで二日酔いみたいに頭がぼうっとする。

あたしの起きるんを待ち構えてたハチを足元にまとわりつかせながら、トントンと階段をおりる。
暖簾越しに玄関をのぞく。
いつもの玄関。
上がり框に捨て男にかけた毛布がキチンと畳んでおかれてる。
よかった、捨て男は帰ったんやね。

台所に入って冷蔵庫からキンキンに冷えた牛乳を出す。
一口ですっきりせえへん頭がキインとなる。
フゥ。

ねぇちゃん、
早うお散歩行こ、
お散歩。

ちぎれてまいそうに尻尾をぶんぶん振りもって、ハチがあたしを見上げてる。
どんな時もお散歩とあたしが大好きなハチ。
ゆるぎない愛がくれるゆるぎない幸せな気持ち。
心があったかくほどける一瞬。

よっしゃ、よっしゃ、
お散歩行こな

と、かがみこんで、ハチの顔を両手で包む。

ハチの身体のぬくもりと、ハチへの愛しさが、両手からあたしの身体いっぱいに広がる。

「おはようさん。」

ハチとのラブラブタイムに、いきなり割り込んできた声。
とびあがるみたいに振り返ったら、台所の入り口に立つ見知らぬ男。
ひいいいいっと思わずひきつけのような声が出かかったけど・・・

あんた、もしかして?
捨て男?
あんた、まだ、おったん?
昨日はオカンの足元に転がってたから、ようわからんかったけど、ごっつい格好やなぁ。 
テカテカのいかにも安もんそうな真っ赤なシャツ。
朝の台所では普通見かけん色彩。
そのシャツもごっつい濃けりゃ、また、顔も濃いなぁ。
ぶっとい眉毛にマッチ棒3本ぐらいのりそうな上下びしばしの睫毛。
濃いひげ。
それより何より、その頭。
何やのそれ?
今時、リーゼント?

「あ、もしかして見とれてる?」

昔のひげそりの宣伝みたいなポーズで捨て男がきく。
声までねちょいな。
ばったもんの郷ひろみみたいや。
きしょい、きしょい。
一番好かんタイプ。

「起きたんやったら、帰ってくださいね。」

朝から不機嫌な声出したら一日ゲンが悪いみたいで嫌やけど、しゃぁない。
台所の入り口に突っ立ってる捨て男の横をすりぬける。

散歩行くで、ハチ!
と、すたすた玄関に向かう。
玄関のたたきに転がってる男もんの靴。
真っ白のワニ革で先がとんがった革靴。

ひゃぁぁぁ、助けて。
リーゼントに、赤シャツに、白ワニの靴?
どこぞの安いチンピラか、一昔前のヤンキーか。
あぁ、きしょい、きしょい、きしょい。
あっちゃ、行け!
と、つま先で白ワニを蹴飛ばす。

あれ?
ハチがついて来てへん。

振り向いたら、あろうことか、ワフワフと床に転がって、捨て男にお腹なでてもうてるがな。

こら!
会うてすぐの人間に降参ポーズとるな、我が愛犬よ。
ねぇちゃんは情けない。

「ハチッ、散歩行けへんのっ。」

尖った声だしたら、やっと起き上がってかけてくる。
チャカチャカチャカ。

「戻ったらまた遊んだるからなあ。」

と追っかけてきた捨て男の図々しい声を断ち切るように、パシッと玄関を閉める。

あぁ、いやいやっ。

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