#4 会うことのなかった父
今まで酔っ払って色んなことがあったオカン。
でも男の人連れて帰ってきたことは、いっぺんも無かった。
しかも、何て言うた?
結婚するて?
ありえへん。
あたしが生まれるずっと前に死んでしもた父。
オカンの最愛の人。
オカンは、その時、まだ二十歳で、ほんでも、二十歳なりにいっちょまえの恋はしてきた・・・・と思うてた。
父と会うまでは。
父と出会うて、この人が好きやと思うた瞬間に心の中で地鳴りのような音がしてんて。
ズズズズズズズって。
どんどん湧き上がる気持ち。
自分の何もかもが竜巻にふかれて、どっか、ちゃうところへ運びさられるよう。
身体も魂も今までの自分までが、メキメキと音をたてて、なぎ倒されるよう。
その暴力的なまでの気持ちの渦に巻き込まれて、息もつかれへん自分。
この竜巻に比べたら、それまで自分が恋愛やと思うてたんは、ミズスマシが池につける輪っ子ぐらいのもんやったなぁと、オカンは目からウロコ落ちたらしい。
気の毒な元彼たちよ。
ミズスマシかよ。
で、竜巻にさらわれるように、オカンは父と結婚した。
初めて会うてから、半年もせんうちに。
何でそんなに急いんだんやろな。
その時にはふたりとも、まだ知らへんかったはずやのに。
父が結婚してから、ほんの三月後にこの世を去ってしまうことを。
一緒におれる時間がこわいほどに短いことを、二人の恋心の深い深いところが感じとったんやろか。
悲しい予感。
愛しい人と、ちょっとでも長く、ちょっとでも多く一緒にいようと呼び合うた心。
父が死んだ時、あたしはまだオカンのお腹の中で、オカンもあたしのおることを、まだ知らへんかった。
オカンの羊水の中でとっぷり眠ってたあたし。
そやのに不思議。
今でもハイライトの箱を見たら、泣きたいような気分になる。
ヘビースモーカーやった父が好きやった煙草。
さすがに入院してからは吸えへん・・・って言うか、吸われへんようになったけど、ほんでも、16の時からの連れみたいなもんやから、(父よ、ちなみにわが国では未成年の喫煙は禁じられてるんよ)見るだけで落ち着くんやと、病院のベッドの横のテーブルに置かれたライトブルーのパッケージ。
とうとう父の呼吸が止まった時、父の名前を何べんも、何べんも呼びながら、治ってまたパカパカ吸うたるって言うてたのにと、オカンの手の中で握られて、くしゃくしゃになってたハイライト。
オカンと繋がったヘソの緒から流れてくる悲しみに、あたしも一緒に泣いてたんかもしれん、お腹の中で。
会うことのなかった父を思って。
火葬場の煙突から昇ってく父を見上げながら、オカンは自分の恋心も高いとこへと昇っていくのが見えたって。
見上げられても、手はとどけへん遠いとこへ。
それからも、オカンに恋する人はようさんおった。
けど、オカンが恋する人はあらわれへんかった。
それにそばにはあたしがおったし。
同じ笑い方するわ
とオカンが言う、父によう似たあたしが。
時々あたしは感じるような気がする。
父の遺伝子があたしの目を通して、今でもオカンを見守ってるんを。
あたしの中に受け継がれた父のオカンへの愛情。
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