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#5 やっぱり、まだおる。

ようやっと気がすんだんか、ハチが戻ってきた。

ひゃぁ、
あんたドロだらけやんか

と言うあたしの声に、かえって嬉しそうにワフワフ言うてる。
愛いやつめ。

カチャンと散歩ひもを首輪につけて、帰り道につく。

ねえちゃん、ねえちゃん、
早う帰ろう、
僕、むっちゃお腹すいた

と、今度は家に向って、あたしをぐいぐい引っ張てたかと思うたら、時々ふと、立ち止まるハチ。

なんかを考えるような顔つきで、空を見上げてるハチの視線をおんなじようにたどる。

別に何が見えるわけやない。
ただ風が吹いてるだけ。
ハチには風が見えるんかな。
変わってく季節の風が。

一緒になって見上げたら時間が一瞬ゆっくりになる。

昨日の雨がうそのように透明に青い空。
白いちぎれ雲。
ハチとこうして一緒に歩いたら、いつもはセカセカ通りすぎてしもて、目に入らへんもんが見えてくることがある。

オカン、まだ起きてないやろなぁ。
捨て男、まだおったらどうしょう。

重い気持ちで、ガラガラと玄関をあける。
玄関のたたきの隅に蹴飛ばされたまま転がってる捨て男の白ワニ。

げぇ、
やっぱり、まだおる。

顔をしかめた途端に台所から捨て男が顔を出す。
一緒に流れ出てくるお味噌汁の匂い。

あんた、何してんのん?

「お帰り、
もうすぐ朝ごはん、出来るで。」

とニカッと笑う。

お帰りやと?
朝ごはんやと?
ここはあたしの家じゃ!

女の子が朝からそんな怖い顔せんと、別嬪さんが台無しやでと、ニカニカしもって玄関に出てきた捨て男。

あ、そうや!

とひらめいて、足元のハチをひょいと渡したった。
泥んこのハチ。
捨て男の赤シャツにとぶ泥の点々。

「宿賃代わり。
この子、お風呂場で洗うたって。」

暖簾の向こうの風呂場の戸を指差しながら言い捨てて、ドシドシ足音たてて台所にむかう。

ええ、何で俺なん?
まじ?

立ち往生してる捨て男の気配。
ちょっとブツブツ言うのんが聞こえたけど、あきらめたんか、
おまえ、どないしたらこんなに泥まみれになんねん
と溜息まじりにハチに話しかける声が廊下の方に消えてく。

オカンが起きたら、オカンからも言うてもらわな。
早う帰ってちょうだいて。
ほんでも、オカン、男を拾てきたん、ちゃんと覚えてるやろか。
べろんべろんに酔っ払うと時々記憶がぶっ飛びやるからなぁ。

ぶつぶつ思いながら台所に入ってったら、となりの茶の間のテーブルにオカンがもう座ってた。

え?
今、何時?

思わず時計を見る。
まだ8時半。
仕事が休み、プラス、飲みすぎ二日酔いのオカンがこんな時間におきてくるやなんて。

「月ちゃん、おはよう。」

しかも、普通の声や。
二日酔いのかすれ声とはちゃう。

目も合わさんと、オカンの声を背中で無視して、冷蔵庫から冷えたトマトジュースを出す。
これがないとあたしの朝は始まらん。

「なぁ、月ちゃん。」

テーブルからオカンが乗り出してくる気配。
背中をむけたまま流し台に手をついて、トマトジュースを一気飲み。

「月ちゃんってば、何怒ってんの。」

台所に入ってきたオカンが横に立つ。
なぁ、月ちゃんと手をつかんでくる。

もう、しゃあないなぁ
と向きなおる。

えへへへと言うみたいなオカンの顔。
ほんま、もう、
しゃあないなぁ。

「オカン、酔っ払うのはええけど、変なもん連れて帰ってくるんは、やめてくれる?」

「変なもんって?」

窓から入る日の光で元々色の薄いオカンのくるくるの髪が透けたような色になる。
毛先にとぶ朝の光。

「捨て男に決まってるやないの。」

「捨て男?
はははははは、研ちゃんのこと?」

何がおかしいねん。

「オカンが言うてんで、捨て男やって。」

「あたしそんなん言うたん? 
そんな失礼なこと?」

「ほんまや、陽子さん、失礼やで。」

声に振り向いたら、また、捨て男が台所の入り口に立ってた。
水と泥がとびちった赤シャツとニカニカ笑いで。

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ココログ小説」カテゴリの記事

コメント

ああ〜〜〜〜、もう、いきなり泣いたわー☆えっ?泣くような内容とちゃうってか☆
じいいいい〜〜〜〜〜〜〜ん、と来るわ。

続きが楽しみです♪

投稿: 殿下と妃殿下 | 2008年2月25日 (月) 16時17分

うまく感想などよう書きませんが、感激です。
インターネットで小説なんて初めて見ました読みました。
また読みに来ます。

投稿: まりかず | 2008年2月25日 (月) 16時23分

いやぁ、私もウルウルしてしまいました。(まだ、早い?)
登場人物も、状況も、ドラマを見たかのように鮮明に浮かんで来ました。
本好きで色々読んできたけど、こんなんはじめてかも・・・です。
早く、来い来い次の更新!!

投稿: こい | 2008年2月25日 (月) 16時49分

私の母は35歳と3日目で未亡人になり、
4人の子供(私達)と自分の母親を一人で支えて
3年前に71歳と2ヶ月で再婚しました(母親が姉妹のいとこ)
現在、新婚夫婦150歳+ 
おじさん(夫)を尻の下にひいて幸せな毎日を過ごしています
おかんがどうなるのか、、楽しみです

投稿: めんたいこ | 2008年2月25日 (月) 17時04分

早く続きが読みたい~。
水曜日が待ちきれへんわhappy01

投稿: kyonko | 2008年2月25日 (月) 18時08分

情景がよく書き込まれているので目に浮かびます。
なんかおもしろい事が起こる気配で、わくわく。
うう〜お預けかぁつらい!despair

投稿: ぼれぼれ | 2008年2月25日 (月) 18時47分

あららぁ…こんないいところで。早く続きが読みたいです☆楽しみにしてます。

投稿: ayaPod | 2008年2月25日 (月) 19時13分

まるで舞台を見ているように状況がわかり、なにか懐かしさを感じるお話ですね。
インターネット小説、はじめての試みですが、いいかも。次回がとっても楽しみです。

投稿: kyoko | 2008年2月25日 (月) 21時10分

映画みてるみたいよ、次回楽しみにしてます。

投稿: いなかもん | 2008年2月25日 (月) 23時41分

一気に読んじゃった♪けど、2日毎の連載?
待ち遠しいや==ん
赤シャツ、リーゼント、白ワニ靴か!なぜか、中学ん時の同級生が頭にちらついて、同世代の設定になりつつあるんですけど~~
以降の展開、たのしみにしときますわ♪

投稿: luna | 2008年2月25日 (月) 23時53分

こむぎママさんトコから来ました。
うさぎの権造って言います。

おかん言うから、うちのおかんかと思ったでぇ!
うちのおかんもよう酔っ払って帰ってくるからなぁ。
うちのおかんも捨て男持って帰ってきたらどないしょ・・・。

投稿: 権造 | 2008年2月26日 (火) 00時21分

5話まで一気読みしました。
軽快な関西弁で主人公・月ちゃんの気持ち、周りの情景が映像で飛び込んできます。
続きが楽しみです!!

投稿: estrella★ | 2008年2月26日 (火) 02時12分

読みました~!!
関西弁の語り口が軽快で、テンポがいいですね。
月ちゃんの気持ちがよく分かります。描かれている情景が目に浮かびます。

連載が楽しみです。

投稿: むささびとびのしん | 2008年2月26日 (火) 04時53分

はちが・・・・・!
一文字一文字に感動してしまう・・・・。
ようやく読めて、うれし~。
次を楽しみにしてるわ~。
英訳本も、でますように!

投稿: ジャスミン」 | 2008年2月26日 (火) 08時19分

関西弁のでのお話、面白いです。
テンポがよくてすらすらと読めました。
連載がとっても楽しみです。
次はどうなるのかしら。

投稿: こむぎママ | 2008年2月26日 (火) 09時12分

昨日携帯から読んで、また今日パソコンでも読みました!
ハチとの散歩のシーンとか、サク婆とのやりとりとか
その背景が目に浮かんできながら読ませてもらいました。
そして「会うことのなかった父」では号泣しました。
なんていうか、その時のオカンの気持ちを思うとたまらないです。
そして、拾ってきた研ちゃん、結構、衝撃的な登場ですね。
続きも待ち遠しいです。

投稿: Bikkyママ | 2008年2月26日 (火) 12時58分

初めまして。
まりかずさんのブログで紹介されていて、読ませていただきました。

第1話の5行目、「床にあたるハチの爪が立てるチャカチャカという音が遠くなってくのんを~」のところで、ノックアウトでした。

ときどきほろっとしながら、くすっとしながら、読み進んでいって
気がついたら、全部読んでいました。
次回もぜひ読ませていただきます。

ありがとうございました。

投稿: ぷいぷいmama | 2008年2月26日 (火) 17時00分

はじめてネット小説なるものを読みました!
テンポのいい文章と、耳にやさしく入る関西弁…ええなぁ!
心温まりそうな話の展開に期待大です♪

投稿: じゅんじゅん | 2008年2月26日 (火) 19時25分

パコヤさん経由でやってまいりました。
インターネットで小説を読むのは、今回が初めてです。
これからの展開がとても楽しみです。

投稿: 神戸のかものはし | 2008年2月26日 (火) 20時32分

第一回にたくさんのコメントありがとうございます。
またお立ち寄りいただけたら嬉しいです。

投稿: 咲乃月音 | 2008年2月27日 (水) 13時09分

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