« #6 悔しいぐらいにおいしい | トップページ | #8 第一印象最悪かも »

#7 桃栗3年柿8年

やっとありついたご飯を美味しい、美味しいと、首ふりながら食べるハチ。

3年前のゴールデンウィークに、うちに拾われてきたんは多分生まれて4、5日やったんかな。
まだ目もあいてへんかった。

自転車置き場のダンボール箱の中で、ハチをいれて5匹のちっちゃい毛のかたまりが眠ってた。
息するのんに合わせてゆっくり上下するピンク色のお腹には、まだヘソの緒の名残みたいなんがくっついてた。

5匹の脇にはバニラアイスのカップに入れられた牛乳。
こんな、ちいちゃいのに、どうやって自分で牛乳飲めるねん。

捨てていった人間の5匹に対するおざなりの気持ちがそこに見えるようで、余計に腹が立った。
ほんまやったら今頃は、母さん犬の腕の中で、うにゅうにゅミルクを飲んでたはずやのに。

5匹ももちろん飼われへん。
ほんでも、そのまま、そこに放っておいたら、きっと一日もせんうちに死んでしまうやろう。
あたしが連れて帰っても、こんな、ちいちゃい子ら、育てへんかもしれん。
ほんでも、どうせ消えてしまうかもしれへん命やったら、ここで捨てられたまま終わってしまうより、ちょっとの間でも屋根の下、誰かに見守られた中の方がましなんとちゃうやろか。

あたしが抱えて帰ったダンボールを覗いて、オカンはウワアと声をあげた。
ウワァ、可愛いって。

5匹に名前をつけた。
桃、栗、さん吉、柿、そしてハチ。
育てへんかもしれんけど、桃栗三年柿八年、実るのんを願って、出来るだけの世話はしたかった。

獣医さんに教えてもうたとうりに、三時間おきの授乳、三時間おきのうんち。
あの年のゴールデンウィークは寝不足やった。

やっぱり無理があったんかな。
数日のうちにさん吉が旅立ち、栗もそれに続いた。
片手にすっぽりおさまるような短い生涯。

家にあるスコップで裏庭の無花果の木の根元に穴をほった。

スコップでさくさくっと、ちいちゃい穴を掘ったつもりやったのに、そおっと、その冷たくなった身体を横たえてやると、穴はがらんと大きくて、その真ん中にポツリとあまりにちいちゃすぎるその姿が悲しくて、なかなか土がかけられへんかった。

今度もし生まれかわったら、もっともっと長く生きられますようにと、手を合わせた。 
残った3匹はびっくりするほど元気にスクスク育っていった。
走って廻って転がって、ぐうぐう眠って、もみくちゃになりながら。

器量よしの桃と柿は夏になる前に新しい家族がみつかって、愛嬌だけが取り柄のハチは今もあたしらと一緒におる。

目の前のご飯が僕の人生の全てやもんねっていう勢いで食べるハチ。
その姿を横にしゃがんで見る。
元気に食べてるのんを見るだけで、こんなに幸せな気持ちになれる。

まだオカンと捨て男はテーブルで、モソモソご飯を食べてる。
何もしゃべってないんか、目と目を見合わせあってんのか、静かな二人。
好きなようにせいと思いながらも、背中で気配を探ってまう。

そこへガラガラと玄関が開く音。

「おはようさあん。」

サク婆や!
いつもは午後のお茶やのに。
今日は朝から来た。
勝手知ったるうちの家。
ごめんくださいの声もなく、玄関から台所に向かうて、歩いてくるサク婆の足音。

いやっ、どないしょう。
いやいや、何であたしがあわてなアカンねん。
ほんでも、なんや
あたふたしてまう。

「おはようさん。」

何度目かの挨拶をしながらサク婆が台所に入ってくる。
何や、月ちゃん、まだ、ジャージ着てんのんかいな、はよ着替えなさいな、おお、ハチ公 (何で年寄はみんなハチ公と呼びたがるんか)ご機嫌さんと、ハチをひと撫で。
陽ちゃん、おはようさんとお茶の間をくるっと振り向いて、サク婆、一時停止。

ひええええええ、
あたしも一緒に一時停止。

「そちらは、どなたさんですの?」

しゃがれたサク婆の声。

ああ、どうなることやらと思いながら見上げるサク婆の後ろ姿。

丁度、目の位置にサク婆の割烹着の後ろの、きっちりと結ばれたリボン結び。
そこにもサク婆の几帳面な性格が出てるような。
後ろやのに何でこんなに上手いこと結べるんやろかと、そんなことをぼんやり思うてた。

|

« #6 悔しいぐらいにおいしい | トップページ | #8 第一印象最悪かも »

ココログ小説」カテゴリの記事

コメント

き、き、気になるぅ~つづきが...
うまいところできりよるなぁ~
週末、気になって気になって、心ここにあらずかも...

投稿: 京子 | 2008年2月29日 (金) 15時25分

命名シーンで思わず、銀ママさんらしいわって思いました。
うまいこと名づけましたね。^^
ほんと^^気になる続きが読みたい~ってとこで切りはる、憎いねぇ~(*⌒∧⌒*)

投稿: まりかず | 2008年2月29日 (金) 15時36分

ついに、ついに、サク婆と研ちゃんのご対面なんですね。
サク婆の『そちらはどなたさんですの?』
のたった一言がドキリとさせますよね。
一番、首を突っ込まれたくない人にばれてしまったその瞬間!
続きが気になります。
ハチの生い立ちはそんなお話しだったんですね。
月ちゃんに連れて帰ってもらえてよかったね~。

投稿: Bikkyママ | 2008年2月29日 (金) 20時16分

サク婆いきなり入ってくるなんて~~~、え~~~です。
どうなるのかな????
あ~、でも子犬の描写がすごいよかった。
埋めてあげる場面がしみじみ悲しかったです~~。

投稿: かなりん | 2008年2月29日 (金) 20時34分

いや~うちの近所にもおった、おった、サク婆のような小母ちゃん♪
今後なぜかしら、サク婆とフィアンセ達の板挟みに遭う月ちゃん、
なんでやねん!話も出てきそうで目が離せんわ★

桃栗3年柿8年、これまた素晴しいネーミングに脱帽!

投稿: luna | 2008年3月 1日 (土) 00時17分

遅ればせながら、ようやく追いつきましたー。
ほんと、続き早く読みたいね。
大阪弁の小説って読むのは初めてで、しかも大阪の人の普段の会話がこんな感じなのかー?と別な角度からも楽しんで読んでるよー。

投稿: ちー | 2008年3月 1日 (土) 01時11分

5匹の捨て犬について描写されているシーンが印象的でした。
実際にこういうことをする人が後を絶たないのは悲しくて腹立たしいです。

サク婆のキャラ、いいですねぇ♪

投稿: 神戸のかものはし | 2008年3月 1日 (土) 13時58分

サク婆は、やっぱり来たんやね~ (^m^)ぷぷっ !
絶対、確信犯やと、私は思う !

いや~ん、いいとこで切ってぇ~・・
次 待っとこ ♪

投稿: ぷいぷいmama | 2008年3月 2日 (日) 18時26分

犬好きとしては、このハチさんのバックグランド、涙なしではよめましぇ〜ん(ぐっすん)。

投稿: cherryslice | 2008年3月 3日 (月) 08時18分

コメントありがとうございます。
嬉しく拝見しています。

犬は今まで2回飼ったことがあるのですが
あまり充分な愛情を与えてやれなかったような気がして
思い出すと申し訳ない思いにとらわれます。

せめて、このお話しの中では月子を含め
周りの登場人物みんなに、ハチが
目いっぱい可愛がってもらえるように
そんな思いもこめてハチを書きました。

またお立ち寄りいただけたら嬉しいです。

投稿: 咲乃月音 | 2008年3月 3日 (月) 14時37分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/506879/40311991

この記事へのトラックバック一覧です: #7 桃栗3年柿8年:

« #6 悔しいぐらいにおいしい | トップページ | #8 第一印象最悪かも »