« #5 やっぱり、まだおる。 | トップページ | #7 桃栗3年柿8年 »

#6 悔しいぐらいにおいしい

おもんない、
おもんない、
おもんないいいい。

何で、捨て男と3人で朝ごはんの食卓を囲むなあかんねん。

「だって、朝ご飯作ってくれたん、研ちゃんやないの。」


何で、捨て男があたしのTシャツ着てるねん。

「だって、研ちゃんのシャツ、どろどろのビチョビチョになってしもたやないの。」

でも、キツキツで長さ足りへんから、ヘソ毛見えてんねんけど。


何で、あたしが、日曜の朝に、どこの誰かわからん男の(しかも勝手にあたしのTシャツ着て)ヘソ毛見ながら朝ごはんを食べなあかんねぇぇぇぇん。

きしょい、
きしょい、
きしょすぎる。

言葉にせんと、目だけギロギロさせて心中のムカツキを示すあたしに、何でわかるか、ぴったりの合いの手を入れてくるオカン。
まだ見えへんヘソの緒がつながってるんかと思うのはこういう時。

あたしの不機嫌もその理由もきっとわかってて、その濃い顔にはおよそ似合わん、運動部の新入部員のような爽やかさで、

あ、ご飯おかわり?
お味噌汁は?
お茶いれなおそか?

と豆々しい捨て男。
しかも捨て男が作ったという朝ご飯は悔しいぐらいにおいしい。
ご飯の炊き加減といい、このお味噌汁といい。

何やのよ、二人して。
なんか、いつまでもムッツリしてるあたしが聞き分けのないスネ子みたいやないの。

「月ちゃん、ええ加減にしなさいよ。
だいたい研ちゃんは、つぶれてしもたあたしを送ってきてくれはってんで。」

「・・・・それは、どうも。」

くいっと、あごだけで捨て男にお辞儀の形をする。

どういたしましてと、捨て男が笑う。
口の横にくっきりと出る笑い皺。
あれっと思う。
どっかで見たよな笑い方。
そっからはなし崩し。
むっつり黙ってた分、いっぺん口がほぐれたら、ききたい事が口をつく。

「ほんで、どこで飲んでたん?」
「捨て男とはどうやって会うたん?」
「昨日の晩のこと、ちゃんと覚えてるのん?」

ちゃんと覚えてるよ、当たり前やないのと笑うオカン。
捨て男って呼んだんは覚えてへんくせにさ。
やわらかい朝の光の中、オカンがちょっと姿勢を正す。

「昨日の晩は『福耳』で研ちゃんとばったり会いました。
ふたりで一升瓶、二本もあけました。
ほんで研ちゃんが、プロポーズしてくれて、あたしは、はいっと返事しました。」

まるで用意してたようにスラスラと答えたかと思うたら、シャンとしてた肩の力をふぅっとぬいて、また、えへへ笑いのオカン。

「プロポーズ?」

声が思わず裏返る。
自分が一気に場違いな場所に来てしもたような心地の悪さ。
この人と結婚するからって言うたんは、酔っぱらいのウワゴトとちゃうかったん?

「昨日初めて会うた男から?」

カチカチのあたしの声。
黙るふたり。
いつのまにかテーブルの下に来たハチが耳をかく音。
ぽりぽりぽり。

「・・・・昨日が初めてやないもん。」

もぞもぞしながら言うオカン。

「初めて会うてからは、もう5年ぐらいかなぁ。」

これまた、もぞもぞしながらい言う捨て男。

えええええい、二人で嬉しそうにもぞもぞ、もぞもぞするんやないっ。

それに5年ってなんやの、それ。
あたし全然知らんかった。
捨て男の存在どころか、オカンにつきあうてる人がおることさえ。
5年というその長さにうちのめされる。

仲のええ母娘やと思てたのに。

ふたりっきりの家族やのに、あたしに隠し事してたんかと思うたら、不覚にも涙がにじんできた。

ううう、泣くな自分、
ええ歳こいて。

うつむいて半泣きのあたしの姿に息をつめる二人。

テーブルの下からハチがとことこ出てきた。
上空の不穏な空気を感じたんやろか。

ハチよ、
お前はあたしの味方よね。

黒い湿った鼻面をなでようとしたら、さっと身をひるがえして台所に走っていき、あっと言う間に、自分の空のエサ箱くわえてもどってきた。

ねえちゃん、
お取り込み中悪いんやけど、
飯おくれ、飯。
僕のご飯、忘れてるで。

えさ箱を前にかがんだ姿勢で上目づかいでブンブン尻尾をふるハチ。
ねえちゃん半泣きやというのに、わが愛犬よ。
いつものことながら、タイミングがええんか、悪いんか。

|

« #5 やっぱり、まだおる。 | トップページ | #7 桃栗3年柿8年 »

ココログ小説」カテゴリの記事

コメント

あぁ、やばいです。
月ちゃんと一緒に、捨て男を無視しようと思うてたのに・・・なんか見る目が変わりつつ・・・。
すっかり入り込んでしもてます。
いいですねぇ、ハチのマイペース。エエ仕事してはる。笑

投稿: こい | 2008年2月27日 (水) 13時17分

なんかブログ読んでるから、ハチが銀ちゃんで、研ちゃんがケガニちゃんにかぶります。(笑)・・・全然違うねんけど。
ごめん、ネット小説はじめてやから。。。切り離してよまなあかんね。^^
研ちゃん、どんな人なんやろ、どうなるんやろ・・・楽しみです。
月ちゃんのTシャツ借りてるから、月ちゃんは中学生くらいかな?

投稿: まりかず | 2008年2月27日 (水) 14時00分

すっかり月ちゃんに感情移入して読んでいました。
研ちゃんに凄くむかつくし5年も黙ってたおかんに腹立たしいような、悲しい気持ちになりました。
研ちゃんって人のこと気になります。
次が楽しみやわぁ。

投稿: こむぎママ | 2008年2月27日 (水) 15時33分

すっかり気持ちは月ちゃんになって読んでいます。仲良し親子やったのに、
母が5年も娘に黙っていたことに読んでいて、ガンとなりました。
私やったら、どうするか、って思いました。
先が楽しみです。

投稿: かなりん | 2008年2月27日 (水) 16時25分

オカンにいい加減にしなさいと言われて
「・・・・それは、どうも。」 と答える月ちゃんは、素直な子やわ !

私やったら、月ちゃんみたいな返事はきっとできないなぁ・・
読みながら、オカンになってみたり、月ちゃんになってみたり、
たまにはハチになって遊んでいる私です。

さすがに研ちゃんにはなれない・・

投稿: ぷいぷいmama | 2008年2月27日 (水) 21時38分

面白い♪
続き早く読みたいです!

投稿: ラブ | 2008年2月27日 (水) 22時15分

今日から、研ちゃんと呼ばせていただきます。
わたし、朝ごはん、おいしく作る人大好きです。

投稿: かるがもまちこ | 2008年2月27日 (水) 22時20分

ほんと感情移入しちゃいます。
この世で二人きり、お互い助け合って生きてきたのに、なんで隠してたん、今まで...とショックを受けてしまいました、と同時に研ちゃんにお母ちゃんをとられてしまったような嫉妬心...つづきが楽しみです。

投稿: | 2008年2月27日 (水) 22時52分

研ちゃんの服装の趣味、食に対するこだわり、
兎に角、何についても半端やなく「自身」を持った方のよう♪
次なる私服がたのしみやったりして!

投稿: luna | 2008年2月27日 (水) 22時53分

リックスで拾うて来た健ちゃんかと思ったら、福耳で拾うた研ちゃんやったんやね(笑)
口の横にくっきりと出る笑い皺☆ 浮かぶ〜〜〜♪

第一回目が5話で、飛ばしてるなー!と思ったけど、今回1話やと、もうちょっと進めて〜な〜と思うわ(笑) この引っぱり具合がまたええんかも☆

楽しみ楽しみ♪

投稿: 電化 | 2008年2月27日 (水) 23時58分

この二人、行きずりかと思ったら
5年も前からの知り合いだったんですね。
なんでも話せる仲良し親子と思っていたのに、
隠し事され裏切られたという気持ちと
オカンの女性の部分を見てしまい複雑な気持ちとで
月ちゃんはとうとう半泣きになってしまいましたね。
ハチを見方につけたいと思う気持ちもわかる気がします。
今回から一話ずつなんですね。早く続きが気になりま〜す。

投稿: Bikkyママ | 2008年2月28日 (木) 02時39分

この二人、行きずりかと思ってたら5年も前から知り合いだったんだ。
仲良しこよしの親子と思ってたのに
話してもらえず裏切られたと思う寂しさと
母親の女性の面を見た複雑さとで
月ちゃんは半泣きになってしまいましたね。
せめてハチだけでも自分の見方にしたいという気持ち、めちゃわかります。
今回から一話ずつなんですね。早く続きが見たいですぅ。

投稿: Bikkyママ | 2008年2月28日 (木) 02時52分

ハイライトで涙しました。だってこの小説と同じ友達がいましたから(男の子だったけど)その友達は結局結婚はしなかったから、私ごとですがハッピエンド終われば……と思いますが、どう展開するか楽しみにしています。

投稿: 石田正紘 | 2008年2月28日 (木) 03時49分

ブログの楽しみとはまた一味違うね~。
朝ドラみたいにわくわくね~。
どうも、おかんの方に感情移入してしまうわ・・・。

投稿: ジャスミン | 2008年2月28日 (木) 08時48分

俺の家も月ちゃんとこと同じで(オカンではなく、オトンやったけど)片親やったけど、気が付いたら新しいオカンが来てた。。。これを読んでて、ふと過去に返ってみたけど、こんな風にオトンとやり取りをした記憶が無いっ!?まっ、まだ子供やったからかもしれんけど、多少はこんなやり取りがあって欲しかったかな・・・
確かに隠し事はそれなりにショックやろーけど、俺的には羨ましいです。
親子2人っきりでも、こんなに家族愛が感じられるなんて(涙)。
これからの展開が待ちどうしいです。

投稿: 古惑仔 | 2008年2月28日 (木) 14時59分

母親に、自分が知らない時間があった事、
特に、濃い親子の時ほどショックですよね!
それが、父以外の男性
考えられませんよね!
これからが楽しみです。
オカンをとおして月子がどんな成長ぶりを見せるのか
わくわくドキドキ!です。

動物表現本当にお上手 パチパチ
ハチ大好きです。

咲乃月音先生 素晴らしい!

投稿: Y子 | 2008年2月28日 (木) 20時02分

こんなに色々の月子像、
捨て男像などを浮かべてくださるんだなと
とても嬉しくコメントを拝見いたしました。

私が書きました文章以上の広がりが
みなさまの中で生まれているようで
それもまた嬉しく思います。

コメントありがとうございました。
引き続きまたお立ち寄りいただければ
嬉しいです。

投稿: 咲乃月音 | 2008年2月29日 (金) 14時37分

おかんの気持がわかる気がするし、月ちゃんの気持ちもわかるきがするしhappy01
このあと、捨て男さんは、賢いハチと仲良くなれるかなshine
展開が楽しみですshine


投稿: 佳月 | 2009年3月15日 (日) 18時41分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/506879/40287690

この記事へのトラックバック一覧です: #6 悔しいぐらいにおいしい:

« #5 やっぱり、まだおる。 | トップページ | #7 桃栗3年柿8年 »