« #10 人魚姫とウニ女 | トップページ | #12 いきなり、ひとつ屋根の下? »

#11 繋いでた指先

話しが変な方に行ってしもたから、肝心のことがきけてないまま、車に乗りこむ。
柔らかいけどヒンヤリした革のシートはセンセイの感触に似てる。

後ろに流れてく夜の繁華街のネオン。
少し前を走ってたトレーラーがゆらりと車線を変えた。
深海魚が身をくねらせるみたいに。

ずっとずっと光の帯が続くように見える環状線。
ほんでも、ずっと走り続ける車はない。
それぞれの道を走って、ほんでいつかはみんな止まる時がくる。

「うちのお母さん、最近、どんな様子やった?」

そう、これをほんまは訊こうと思うてたのに。

カーステのスイッチに灯るグリーンの光だけの薄暗い車内。
そってないヒゲがセンセイの輪郭を濃くしてる。

「ううううん、特に変わったとこなかったけどなぁ。
いつもの陽子ちゃん。」

少し首をひねって言うセンセイ。

「なんや、ウキウキしてたとか?」

なんかこれという返事がほしくて畳み掛けるあたし。

「陽子ちゃん、いっつも、ばか明るいからなぁ。」

・・・・確かに。

「ほんだら、最近、ちょっと綺麗になったかなぁとか?」

「陽子ちゃん、元々、別嬪さんの部類やし。」

なんや、暖簾に腕押しみたいな会話。
イライラするなぁ、もう。

「それより、相手はどこのどいつやのん。」

どこのどいつ・・・・
やっぱりセンセイ、気になってるんやん。

「全然わからんねん。
なんか安ういチンピラみたいな格好して。
昨日が会うたん初めてやし、捨て男と。」

今度はあたしが暖簾になる。

「ステオ?
何じゃそりゃ。」
 
「捨てられてたん拾うてきたって、お母さんが言うてんもん。」

顎をちょっと反らせてセンセイが短く笑う。
きれいな喉の線。

ほんまの名前はなんやったけ。
二回戦の研ちゃんとかって言うてたなぁ。
ええと・・
あ、そうや!

「服部研二」

記憶の焦点がおうたんに声がはずむ。

「ハットリケンジ・・・服部さんなぁ。
なんか聞いた事あるなぁ。」

今度はハンドルを握ったセンセイが、合いそうで合えへん焦点を探してるみたい。

あたしも目の前のフロントガラスの向こうに意味もなく目をこらしてみる。
前の車のテールランプ。
ぶつからんように灯してるはずやのに、見てると吸い込まれそうになってく赤い光。

急にばしっと音がしてフロントガラスに水滴が飛ぶ。
え、雨?
思うまもなく、大粒の水滴がどんどんフロントガラスに飛んでくる。
水の銃弾あびてるみたい。
前からバチバチうちつけて来る。
当たってはにじみ、当たってはにじみ、その合間の一瞬の視界のために、
ちゃかちゃかと左右に動くワイパー。
メトロノームみたいに。
雨のリズムを測るみたいに。

「ごっつい雨になってきたなぁ。
今日は家の前まで送っていくわ。」

センセイの手がふと伸びてきて、あたしの手を探す。
手のひらをすくあげるように受け止めて、指をからめる。
冷たい指先があつく熱をもち始める。

いつもは家のすぐそば、高速道路の高架下のトンネルの手前でセンセイの車をおりる。
トンネルをくぐりきったとこから振り向いたら、それを見届けたセンセイの車が夜の中に消えてく。
あちら側にセンセイとおった女の顔のあたしも一緒に消えていって、
あたしは現実の空気の中にもどってく、娘の顔で。

オカンはセンセイとあたしがつきあうてることは知ってる。
別に反対もされてへん・・・っていうか、むしろそれを喜んでる風。

そやけど、まだ未だにセンセイがうちの家に来たことはない。
こんな風に会うた帰りに
じゃぁ、ちょっと上がってお茶でも
と誘うたこともない。

オカンはいつでも連れておいでえなって言うねんけど。
見たないねん。
センセイとオカンが一緒にいるとこを。

センセイのほんまに好きなんはオカンっていう自分の中の想像が、目の前でほんまの形になるんが怖い。

家の近くにくるまでに、雨、ちょっとはましになればええのに、ほんだらいつもの高架の手前で、
やっぱり、ここでええよって車おりられんねんけど。

あたしの気持ちをよそに、ますます強まる雨足。
いつもよりスピードを落としたセンセイの運転やのに、あっと言う間に家のすぐそばまで来てしもた。

いつもは歩いて通るトンネルを車で通る。
ああ、こちら側に来てしまいはった。
これでセンセイとの綺麗な夢の中のような時間もちがう色になってしまうんやろか。
その感触を確かめるように、さっきから繋いでた指先にキュッと力をこめる。

|

« #10 人魚姫とウニ女 | トップページ | #12 いきなり、ひとつ屋根の下? »

ココログ小説」カテゴリの記事

コメント

え~~@@
月ちゃんに彼氏が居たんですね。
それもかなり年上。。
描写が綺麗なのでさらされっと読めましたが。。かなり濃い内容ですね。^^;
こっちの彼も気になるわぁ。

投稿: こむぎママ | 2008年3月10日 (月) 15時06分

ホンマはどうなんでしょ、先生の気持ち。
>センセイのほんまに好きなんはオカンっていう・・・
思いっきし、胸がきゅーんとなりました。
あぁ、月ちゃんの思い過ごしであって欲しい。
捨て男はステオトコやなくて、ステオでよかったんですね。
語呂がよーなりました。笑

投稿: こい | 2008年3月10日 (月) 16時59分

拝読しておりますと、車の中の様子が目に浮かんできました。
毎度同じことばかり言っていますが、早く続きを読みたいです♪

投稿: 神戸のかものはし | 2008年3月10日 (月) 21時43分

センセイ、月ちゃんとオカンのどっちが好きなんやろう。
月ちゃんの不安に思う気持ちがなんか伝わってきて
私もどっちなん?どっちなん?って思いながら読んでしまいました。
月ちゃんの思い過ごしであって欲しいなぁ。。。

投稿: Bikkyママ | 2008年3月11日 (火) 02時10分

コメントありがとうございます。

センセイの気持ちは・・・・・続きをお楽しみに(笑)

またお立ち寄りくださいね。

投稿: 咲乃月音 | 2008年3月12日 (水) 14時18分

>おかんの恋人気になるわー
(この言い方始めての体験?でもこの言い方が似合うみたい)
白い革靴の男で食事を上手に作る男はろくな人が居ないというのが
私の感想。騙されないで欲しいわー
因みに私の嫌いなタイプ。白いスーツで金のネックレス、プレスレット、
まさしく捨男さん。どうしておかんが好きになったのか理解に苦しみます。

投稿: >yukube | 2008年3月12日 (水) 14時57分

コメントありがとうございます。

私も捨て男くんは苦手なタイプかもしれません(笑

またお立ち寄りくださいね。

投稿: 咲乃月音 | 2008年3月14日 (金) 15時22分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« #10 人魚姫とウニ女 | トップページ | #12 いきなり、ひとつ屋根の下? »