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#12 いきなり、ひとつ屋根の下?

オレンジがかった玄関灯の下にぶらさがってる表札。
濃い茶色の焼き板の上に、うちの名字とその下にようこ、つきこと白木の板をくりぬいて作った平仮名がならんでる。
つきこの下には太字のマジックで付け足されたハチの名前。
小学校の時にオカンと一緒にいった子供会のキャンプで作った表札。
下手くそやし、色があせてぶさいくやのに、未だにそこにある。
風でちょっとゆれてるそれをセンセイが見てる。

家の前で車がとまった時、ほな、ありがとうって言うかわりに、まだ早いし、あがってお茶でもと言うた自分の声にびっくりした。
そう言ったあたしの頭に浮かんでたんは、肩を並べて笑ってる今朝のオカンと捨て男の姿。母親やなくて女の顔で笑うてたオカン。

センセイはそう言われるんがわかってたみたいに、ほんならちょっとだけと、いつものゆるい動作で車のエンジンを止めた。

「これ月ちゃんが、作ったん?」

表札をつつきながらセンセイがきく。
そうやと、頷いたら、

「かいらしなぁ。」

とあたしを見る目元がゆるむ。
この人とおると、ほんまに自分が可愛いもんのような気持ちになってしまう。
あんまりにも簡単にゆるむ自分の気持ちを持て余して、ちょっと乱暴に引き戸をあける。
ただいまぁ。

いつものように、上がり框できちんとお座りしてあたしをお迎えするハチ。
ぶんぶんお尻尾ふって。
おぉ、よしよし、ハチの頭に手をさしのべながら入った玄関で足がこおる。
たたきにドッテリ横たわる白ワニ。

しかも

「おう、お帰りっ。」

と台所から顔を出したんは、その飼い主の捨て男。
 
何で。

「何で、またここにいてんのん。」

どうも捨て男にやと、頭の中の言葉がそのまま口から出る。

「何でって、僕、今日からこの家にお世話になることになってん。」

ヘラヘラと笑いながら玄関に出てくる。
またもや真っ赤なシャツ。
テカテカのリーゼント。

「はぁぁあぁ?」

なんですと?
それは、まさかここに住むってことやないやろね?
いきなり現れて、結婚っていうだけでも充分びっくりしてんのに。
一緒に住む??
いきなり、捨て男とひとつ屋根の下??
あかん、あかん、あっかいな。

拒否り全開、どん引きのあたしにまるで構わずニッカリ笑う捨て男。

「よろしくね、月ちゃん」

馴れ馴れしく月ちゃんって呼ぶな。
図々しくて無神経。
ほんま、すかんたこ。
こんな奴と一緒の家に住むなんて絶対いややと、オカンに言うたらなあかん。
ちょっと、そこどいてっと目の前の捨て男を突き飛ばすように玄関にあがろうとしたら、
「あ、こちらは月ちゃんのお客さん?」

捨て男の視線が、あたしの後ろに動く。
そうや、センセイも一緒やったんや。
捨て男に気ぃとられて、一瞬その存在がとんでしもてた。

「あ、はじめまして。村上です。」

センセイがいつもの柔らかい空気のまま、ちょっと頭を下げる。
いつものごとく常温のセンセイ。
ふうん。

「あ、もしかして陽子さんの勤めてるクリニックの先生ですか?
いやー、お会いできて嬉しいです、僕。」

こちらは温度が高い捨て男。
いきなりの捨て男の熱さにセンセイちょっと、たじろいた?

僕は今日は遠慮しといた方がええかなと帰る気配をみせたセンセイに、

「いやいや、そんな折角やのに遠慮せんといてください。」

と答えたのは、あたしやのうて捨て男。

あんたが言うなよ。
まるで自分の家みたいにっ。

気にいらん光線をバシバシにとばしてるあたしなんて全然目に入ってへんように、捨て男がいそいそとお客さん用のスリッパを並べる。
負けずにあたしも脇にさがって、どうぞ、どうぞと手でしめす。
なんや旅館の息のあうた番頭と仲居のような捨て男とあたし。
やな感じ。
とってもやな感じ。

「ほんだら、ちょっとだけ。」

と玄関にあがったセンセイに、あたしも続く。

先生の背中。
シャツの右の肩先が濡れてる。
車から玄関までほんの数歩の距離やったけど、左側のあたしをかばって傘をかたむけてくれてたから。
雨と一緒にセンセイの優しいとこがシャツににじんでる。

ちょっと散らかってるけど、どうぞと、先に立って暖簾をくぐる。
後ろから、大丈夫やで、僕が片付けといたしと、追ってくる捨て男の声。
ほんまに一言多いねん。

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コメント

あら…捨て男さん、家に帰ったら早速お出迎えですか。
月ちゃんのイライラも増してきたみたいだけど
とうとうこのまま住みついちゃうみたいですね。
なんだか今後の捨て男がめちゃめちゃ気になります。

投稿: Bikkyママ | 2008年3月13日 (木) 01時54分

まいったなあ〜、センセイ、なんかきちっとした人♪
そお?そういう感じ?そんなイメージなんかなあ。ふふふ。

すてお、可愛い♪ もしかして設定はチリ毛?(笑)

投稿: 殿下と妃殿下 | 2008年3月13日 (木) 11時34分

肩が濡れてるあたり、良い情景ですね。
センセイの優しさがにじみ出てます。
それに比べて捨て男めっ。
月ちゃんの気持ちと相まってってイライラします。笑
すっかり引き込まれてしまいました。
早く続きを読みたいです。

投稿: こむぎママ | 2008年3月13日 (木) 12時32分

シャツの右肩が濡れている・・・に胸キュン♪
で、この捨て男さん、一緒に住むのん?
おかんさんと、先生は顔を合わせてどんな反応?
楽しみです~

投稿: まりかず | 2008年3月13日 (木) 15時36分

や・・・勝手にセンセイ=開業出来る年代→既婚者と思い込んでたもんで
ど、ど、どないやねんろ???
とハラハラしてますねんっっわ!

投稿: luna | 2008年3月13日 (木) 23時43分

コメントありがとうございます。

いきなりひとつ屋根の下は、たとえ相手が感じのええ人やったとしても

やっぱり抵抗があると私も思います。

また続きをのぞきにいらしてくださいね。

投稿: 咲乃月音 | 2008年3月14日 (金) 15時20分

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