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#13 一足先に春爛漫

茶の間に入ったけどオカンの姿がない。

あれ?
お母さんは?
いてないの?

そら電話も入れんと突然センセイ連れて戻ってきたけど、おるもんやと思うてたのに。
ちょっと責めるような口調のあたしに

「酒屋さんにシャンぺン買いにいってる。」

と顔を崩す捨て男。

シャンペン?
こんな雨の中?
なにゆえにシャンペン?

「陽子さん、今日から一緒に住み始めるお祝いしょうって言うて。」

さらに嬉しそうに笑う捨て男。
口のわきの笑い皺が深くなる。

・・・・つまらん。
あたしにとっちゃ、これっぽっちもおめでたくないねんけど。

ふと見ると、テーブルの上に並んだ酒の肴たち。
しかも、かなり美味しそうな。
ツヤツヤに光るふきの煮たん、きれいな緑の春菊のお浸し、天ぷらはタラの芽かな?
よう味がしゅんでそうな若竹煮。
このおぼろ昆布と和えてある白身のお魚は何やろ?

「それは、鯛の昆布しめや。」

あたしの視線を読んだ捨て男が言う。

へぇー、しめ鯛って食べたことないわ。
テーブルの上は一足先に春爛漫。
なんて美味しそう。

・・・美味しそうなんはええけどさ、この料理どっから来たん?
うちのオカンは自慢やないが家事能力ゼロ。
その中でも料理は最悪。
あたしはサク婆のご飯で育ったようなもんやもん。
うちのお袋の味はサク婆の手料理。
と言うて、このへんの市場にはこんな洒落たお惣菜なんて売ってへんもんな。

もしかして・・・口に出すのがこわいけど

「これ、もしかして捨て男が作ったん?」

「うん、まあな。」

く、くやしい。
あたしの中で捨て男の点数が、ちょっと上がってしもた。
オカンが料理をせんぶん、美味しい料理を食べさせてくれそうな人間というのに弱いあたし。

「捨て男、もしかして、まさか、板前さん?」

「捨て男って呼ばんといてえなあ。
研二さん、いや、月ちゃんやから研ちゃんでええよ。」

あたしも研ちゃんって呼ばへんねんから、あたしのことも月ちゃんって呼ばんといてほしいと言う気持ちをこめて再度きく。

「捨て男さんは、板前さんなんですか?」

どないしても、月ちゃん、俺のこと捨て男って呼びたいねんな。
まぁ、ええわと笑いながら、

「板さんやってたんはずうっと前。
おとといまでは家政婦やってた。」

「か、家政婦ぅ?」

何で家政婦なん?

「うん、住み込みで。」

悪びれたふうもなく笑う捨て男。

「まぁ、立ち話もなんやし、座ってしゃべろうな。
さぁ、さぁ、月ちゃんも村上先生も座って、座って。」

なんや、すっかり捨て男のペースで、あたしらはテーブルにつく。
陽子さん、もうすぐ帰ってくると思うから、食前酒でも飲んで待っとこかと、捨て男がすっかり馴染んだ様子で台所に入っていき、冷蔵庫から何かを出してくる。

「かぼす酒。さっぱりしてて中々いけるで。」

テーブルに置かれた水差しの中のほのかに淡い薄緑色。

「いや、僕は車なんで。」
 
とセンセイが手をふる。

「あたしも今日はもうだいぶ飲んだんで。」

とあたしもそれにつづく。

ええ、二人とも飲まへんのん?
と残念そうな捨て男の前で、まるで汗かくみたいに、水差しのつるんとしたガラスの表面に見る間にふるふると水滴がわいてきた。

アルコールがあかんかったらと、これまた手際よく捨て男が運んできたお茶。
お番茶の中に塩昆布とくだいた梅干が入ってる。
一口飲んで、思わず美味しいと口から出たあたしに、飲んだ後はこれが一番やと捨て男。
ふむ、性格は絶対あいそうにもないけど、味覚はあうんかも。

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コメント

研ちゃん、料理ができるんだ~!
鯛の昆布しめって私も食べたことないですぅ。
お番茶の中に塩昆布とくだいた梅干って美味しそうだわ。
研ちゃんちょっぴり尊敬します。
センセイがオカンのことをどう思ってるのかとっても気になるのに
今回もまだ二人はご対面じゃないんですね。
次あたりかなぁ・・・今後の展開も楽しみ。

投稿: Bikkyママ | 2008年3月14日 (金) 21時18分

ひや~何とまぁ小料理屋風!
おまけに家政婦やってた?ということは、家事全般◎ってことやんね!
うぅぅ・・・
これは、捨て難男の典型・・・
オカンの見る目を評価すべきか?
わたしもつい、シャンパン買いに走りそうやもん

投稿: luna | 2008年3月15日 (土) 10時43分

よませてもらいましたまたよみたいなあ

投稿: ちゃい | 2008年3月16日 (日) 06時09分

料理の上手い男いいなぁ。
ちょっと気になりますねぇ。お母さんのお相手の人。

投稿: のんちゃん | 2008年3月16日 (日) 10時34分

捨て男に対する月ちゃんの感情の変化に注目しながら、続きを楽しみたいです。

投稿: 神戸のかものはし | 2008年3月16日 (日) 21時34分

コメントありがとうございます。

私も食べることが大好きなので

お料理の出来る男性というのはよいなあと

思ってしまいます。

またお立ち寄りいただけたら嬉しいです。

投稿: 咲乃月音 | 2008年3月17日 (月) 12時15分

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