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#14 お通夜みたいな顔して

「ほんで、ほんまに家政婦してたん?」

実はさっきの話のつづきが気になってたあたし。

「うん、ほんま。」

僕も陽子さんが帰ってくるまではお茶にしとこと、番茶をすする捨て男。
両手で包んだお湯飲みに目をおとしもって。
バシバシの睫毛が作る影。

「ふうん。ホストでもしてんのかと思うた。」

「え、俺、そんな格好ええかな。」

思いっきり嫌味の先制パンチのつもりやったのに全然効いてへんみたい。

「ちゃうよ、その格好。
どう見ても使いっぱしりのチンピラかホストにしか見えへんもん。」

へっへー、言うたった。

「ああ、これ。
これは俺の趣味とちゃうよ。
家政婦してた先のおばあはんの趣味。
おばあはん、ジェームス・ディーンの大ファンやってん。
ジェームス・ディーンいうたら、赤いシャツにリーゼントやろ?」

住み込みの家政婦してて、その雇い主はおばあさんで、そのおばあさんの趣味で赤シャツにリーゼントやったん??
それって、
「それって、ほんまはツバメとちゃうのん。」

「おいおい、月ちゃん。」

それまで横で黙ってきいてたセンセイがたしなめるような声を出す。

「いや、ええんです。
先生。
そうきかはる人多かったし。」

両手の中の番茶を一口すすって、ふうと息をつく捨て男。

「おばあはん、先週亡くなったんですけどね。
死んだら急に集まってきはったおばあはんの孫やら親戚やらに、財産目当てのツバメやと思われたみたいで、ほんで追い出されたんですわ。
おばあはんに住み込みの家政婦がいてるとは知ってたみたいやけど、まさか男やとは誰も思うてなかったみたいでね。
おまけにこんな格好してるし。
まぁ、でも、おばあはんが好きやった格好やし。
初七日までは、この格好しとこうかと思てね。
俺、他に供養らしい供養もできへんし。」

茶の間の電気の下、テラテラ波打つシャツの赤い色。

「俺ね、悔しかったんですわ、ほんま。
いや、ツバメに間違われたことやなくてね。
おばあはんがどんな風に暮らしてたんか、知らんかったんやないかって思てね。
生きてる間はみんな知らんふりで、死んでしもてからワラワラ寄ってきたってもう、話しもできへんのにね。」

話しの継ぎ目になると外の雨音が急に近くに聞こえる。
テーブルの下ではアゴまで床にぺったりつけて腹ばいになってるハチが時々ならす尻尾の音。ぱたぱたぱた。相槌みたいに。

「つらい話しやな。」

センセイがぽっそり言う。

「・・・つらかったですわ。
色んなことが。
なんでまた死に目に会わんならんのかとも思てね。」

死に目。
嫌な言葉。

大きすぎる氷を飲み込んだときみたいに、すうっと身体の中を冷たいもんがおりていく。
「他にも近しい人が亡くなりはったん?」

きいたらアカン事かもしれんと思いながら、またという言葉の影に引きずられて、きいてしまう。

「うん。うちのおじいはんがな、もう5年ほど前やけど。」

ちょっとの間。

「俺が死なせたようなもんや。」

と、ちいちゃい息をつくように捨て男が言うた。
お湯飲みを持ってた手にぎゅうっと力が入ってた。

また強なった外の雨の音。
ザアザアザア。

ハチが急にテーブルの下からとび出てきて、はねるように玄関に向かう。
あ、オカンが帰ってきたんかな。

飼い主が言うのもなんやけど、ちょっと抜けたとこのあるハチ。
散歩中に猫にふぅぅぅっとされて、きゅうんと尻尾を巻くあかんたれな犬。
他の家に貰われていった桃や柿なんかは、小さいながらもきりっとしてたけど、ハチは何やぼさあっとしてたもんなぁ。
悪戯を見つかっても、あたしがコラァと叫ぶ前に逃げてまう桃と柿に取り残されて、ハチだけがいっつも怒られてた。

唯一、犬らしいキリッとしたとこ言うたら、こうやってどんな時も遠くから帰ってくるあたしとオカンを玄関できっちりお座りで待っててくれるとこ。
かわいい、かわいいうちのハチ。

ひゃぁぁぁ、ほんま、えらい雨やったわぁと賑やかな声を出しながらオカンが帰宅。
足元に尻尾ぶんぶん振ってまとわりつくハチ。

「何やの、みんなでお通夜みたいな顔して。」

お茶の間に入ってきたオカンの第一声。
能天気なんか鋭いんか、わからんわ、ほんま。

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コメント

あれれ?
捨て男のことを見る目が変わってきましたね。
人は見かけじゃ分からないってことでしょうか?
明るいおかんさんが帰ってきて、このお通夜みたいな雰囲気が一気に変わるあたり面白いです。

投稿: こむぎママ | 2008年3月17日 (月) 14時30分

捨て男さん、いい人っぽいではありませんか。
俺が死なせたようなもんやって・・・どうな事情なんでしょう。
お母さんが帰ってきてどうなるんでしょう。楽しみです~

投稿: まりかず | 2008年3月17日 (月) 14時40分

捨て男さんのあの格好・・・
そういう意味があったんですね。
なんだかとってもいい人ではありませんか。
おじいさんとは何があったんでしょう?
気になります。
ハチってやっぱり可愛い。
なんかドン臭そうな所がなんとも憎めなくて
いい味だしてるよね。

投稿: Bikkyママ | 2008年3月17日 (月) 15時15分

じ〜〜〜〜んと、読ませるねえ。 ほんまに書くのん、上手。犬の描写もすごいわー。
この研ちゃんとの会話のテンポは、もう、壷に入ってるなあ。
私やったら、村上センセイより研ちゃんに惹かれるわん♪
もしかして、オカンの嫁入りのはずが、月ちゃんが横恋慕しちゃってドロドロなるとか?!
・・・って、どうも私は心が歪んどるなあ(笑)

投稿: 殿下 | 2008年3月17日 (月) 17時26分

ワタワタしてる間に進んでいて、固めて3話読みました。
捨て男のイメージが変わりましたね~。発する言葉がなんかいい人みたいに
思えてきます。
一気に同居となると、この先の展開がまた楽しみです。

投稿: かなりん | 2008年3月17日 (月) 20時25分

何と・・・ジェームス君で供養やったんかぁ。
初七日が明けた頃、研ちゃんの真の姿が見られるのか!?
兎に角も、チャラ男でないことは確かやね、この兄ちゃん。

投稿: luna | 2008年3月18日 (火) 00時33分

うんうん。確かに変わってるけど、捨て男はエエ奴なんかも。
でも、月ちゃんのように、隠されてたことが気になる私。(私に隠したわけやない)
いつものことながら、次回も楽しみです。

投稿: こい | 2008年3月18日 (火) 03時31分

私の中で「捨て男」の株が上昇しました(笑)。

投稿: 神戸のかものはし | 2008年3月18日 (火) 05時34分

コメントありがとうございました。

捨て男、そうですね、思ったより悪い人ではないかもしれません。

またお立ち寄りくださいね。

投稿: 咲乃月音 | 2008年3月20日 (木) 12時52分

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