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#15 前途を祝して

おおおお、すごいご馳走。
これ研ちゃんが作ったん?
ほんま、ええ婿さん見つけたわ、あたし
と、お茶の間にコロコロひびくオカンの声。

もう冷えてんのん買うてきたから、
さあさあ、みんなで乾杯しましょ
とグラスを出してくる。

センセイが僕は車やからと断ってんのに、
お祝いやないの、
固いこと言わんと、
ほらっ
と、グラスを無理やりもたせる。

一同席についたとこでオカン、コホンと咳払い。

「では、あたしと研ちゃんの前途を祝して、かんぱ~い!」

グラスを高々とあげる。
乾杯なんかしたないけど、しぶしぶグラスを上げるあたし。

それにしても、へんなの。
普通、他の人が前途を祝してあげなあかんのんとちゃうのん?
自分で祝してやるし。
まぁ、いつものオカンのペースか。

「ほんで、みんなで辛気臭い顔して何の話しをしとったん?」

「僕が若いつばめをしてた時の話しとかね。」

と捨て男。

「はっはぁ~。
研ちゃん、そんな風に見えるもんなぁ。
男前やし。」

オカンますます上機嫌。


二人並んでたらよう似合うてるよ。
美男美女で。
それも濃い顔の。」

とセンセイがまぜ返す。

その横顔をちら見したけど、全然いつもといっしょ。
いつものセンセイの温度。
いつものセンセイのゆるい空気。

「そう言う二人もお似合いやよ。」

あたしとセンセイを見比べてオカンが言う。

げ、こっちにふられたら恥ずかしい。
お尻がムズムズするような。

「先生もクリニックにおる時となんか雰囲気ちゃうし。
無精ひげなんか生やして色っぽいやないの。」

わちゃあ、すごいところをついてくるオカン。

「僕かて、デートの時ぐらい色気だしますよ。」

センセイ、サラッとかわしてくれたけど、あたしは顔がほてってきたかも。
それに気づいてるんか、気づいてないんか、ウフフと笑うオカン。

「嬉しいわぁ。
先生がうちに来てくれはったやなんて。」

キラキラ光るオカンの目。

「母親としては、なんかね、心配やったの。
月ちゃんの彼氏やのに家に挨拶にも来えへんやなんて。
ちゃんとつきあうてるんやろかって。」

「ちゃんとつきあうてますよ。」

なぁ、月ちゃんとセンセイがあたしに目を流す。
恥ずかしさがまだとれへんまま、淡くうなづくあたし。
そうか、あたしとセンセイはちゃんとつきあうてたんか。
前で何や言いたそうな顔でニヤニヤしてる捨て男。

では、研ちゃんの初の手料理をいただくとしますかとオカンがお箸をとる。
若竹煮の筍をスッと口に運んだかと思うと、ほっぺたに手を当ててとろけるような笑顔。
「美味しいわぁぁぁぁ。研ちゃん。」

「愛情こもってますからね。」

と、オカンのその姿を見て、さらにとろけるように笑み崩れる捨て男。

ひゃぁ、やってられんわ。
この二人。

ううん、でも確かに美味しそう。
あたしも思わず筍に箸をのばす。

お、美味しい!
口の中に広がる春の青い味。
笑顔になってまう。

「ほんま、カエルの子はカエルなんか、カエルの母もカエルなんか、母娘そろって、美味しいもん食べる時は、ほんま、ええ顔するなぁ。」

とセンセイが感心した声で言う。

「そんなん、あたりまえやん、章ちゃん。
美味しいもん食べたら美味しい顔になって。」

あ、オカン、センセイのこと名前で呼んだ。
なんか、小ちゃい小ちゃい小骨が喉にささったような気分。
むせるほどやないけど、飲みこんだらヒリヒリと痛むよな。

そんな、あたしのしょうもない引っかかりなど気づかんオカンは、上機嫌キープで、ええピッチでグラスを空け、ぱくぱくと音がしそうな勢いで料理を口に運ぶ。

「俺もね、陽子さんのこの食べっぷりに、まず、いかれてしもたんですわ。」

と自分は箸に手をつけんと、もっぱらオカンが食べるのを眺めながら捨て男が言う。

「俺、元々、板さんやってたでしょう。
食べるときにこんな幸せそうな顔してもうたら、板さん冥利につきるなって思うてね。」
「それ、わかるわ。」

と、センセイが合いの手を入れる。

「まぁ、僕の場合は、僕が作るわけやないけどね。
月ちゃんが美味しそうに食べてるとこみたら、自分が幸せにしたげたみたいで、嬉しなるねん。」

なんか、不思議な感じがした。
誰かにあたしのことを話すセンセイというのを見たことなかったから。
見知らぬ人が見知らぬあたしのことを話してるみたい。
ほんでも嬉しかった。
そんな風に思うてくれてたんやと思うと。
あたしはセンセイのどこを見てたんやろ。

車やしとか、明日は仕事やしとか、飲みすぎやしとかいう色んな言い訳を、オカンがそのたんびに、なぎ倒しなぎ倒し、シャンパンの次は、捨て男特製かぼす酒も飲み干し、その次はワインやと日曜の晩やのに大宴会の雰囲気になってきた。

そのうち捨て男が、かくし芸やというて、かぼす5つを見事にジャグリングしだし、センセイも掛布や岡田や真弓のあたしが見てもようわからん野球の物真似をしだし(ちなみに2年の間でセンセイがあんなに酔うたんみたんは初めて)オカンはそれを見てひたすら笑い、部屋に満ち満ちたハイな空気はハチにも感染したんか、みんなの間をクルクル走り回り、時折、ワンッと短く吠えた。僕も仲間に入れてえなとでも言うように。

窓の外では相変わらず雨がだだ降りで、雨のケープにあたしらのおるとこがスッポリ包まれてしもたみたい。

何か、この世にあたしらだけが取り残されたような幸せな隔絶感。

あの夜のことを思い出すたび、乾杯のシャンパンを思い出す。
はじけては、ゆっくり昇って消えてく泡。
みんな、よう笑うて、泡々としたひと時。
綺麗けどいつかは消えていく時。

思えば、あたしらが一番幸せやったのはあの晩やったんかもしれん。

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コメント

いやぁぁぁぁん。
意味深なラストの言葉。
この先何が待ってるんでしょお?
なんか、月ちゃんには絶対の絶対に幸せになってもらいたいんです。
月音センセー、何とぞ、よろしく頼んます。笑

投稿: こい | 2008年3月19日 (水) 16時42分

宴会の夜が一番幸せだったのですか???
この後が心配になって来ました。どうなるんやろ???

投稿: 神戸のかものはし | 2008年3月19日 (水) 20時28分

いやん、気になるう〜〜〜〜〜〜!
この調子でとんとん話しが円満に進むと思いながら読んでて、この調子で行ったら、もしかしてあと5回くらいでハッピーエンド?! と思ったら、いやはや、やっぱり変化球ありなんやね。
爆想好きな私・・・・あれこれいろんなバージョンを考えてしまう☆

いい小説やわ♪ ほっこりしたり、どきどきしたり。

ベストセラー祈る!

投稿: 殿下 | 2008年3月20日 (木) 15時40分

いいな、いいな~こういう親子関係♪と読み進んでたら
うm?嵐の前の静けさ?嵐の中の静けさ?
連ドラを見てるような、あ~んもぅええとこで切れるっし~
と3時が待ち遠しくて堪らんやんか・・・

投稿: luna | 2008年3月21日 (金) 07時48分

楽しい~~~っ
面白い~~。
こんなワクワクさせてくれる小説久しぶり。
え?最後のこの終わり方は何?何??
続きが気になるぅぅぅぅ。

投稿: こむぎママ | 2008年3月21日 (金) 12時44分

楽しそうな食卓ですね。
月ちゃんが毛嫌いしてた研ちゃんともなんかいい感じだし、
とにかくオカンの明るさが本当にいいですよね。
自分の事を話してくれる先生を見て嬉しくなる月ちゃん
なんかわかるな〜。
でも最後のフレーズ、この時が1番幸せだったって…
何があるの?気になってしかたないですぅ。

投稿: Bikkyママ | 2008年3月21日 (金) 23時16分

みなさま、コメントありがとうございました。

月ちゃんをはじめ登場人物にはみんな幸せに

なってほしいですね。

またお立ち寄りくださいませ。

投稿: 咲乃月音 | 2008年3月22日 (土) 16時54分

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