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#18 弁慶の泣き所

その25年ぶりのオカンの恋人は、台所で甲斐甲斐しく朝ごはんをテーブルに並べてる。
炊き立てのごはん、お味噌汁、納豆、シャケの塩焼きに、だし巻き卵。
ちょっとした旅館の朝ごはんみたい。
くやしいけど、また捨て男の点数が上がる。

節操のないあたしの胃袋よ。

捨て男と向かいあい、いただきますと手をあわせる。
熱々の味噌汁をすすり、つやつやに光るご飯にきゅうりのお漬物をそえて食べる。
ぱりぽり。
美味しい。
ちょうどええ漬かりよう。
自家製らしいお漬物。
うち糠床なんてないのに、どうやって作ったんやろ。

「これ、どうやって漬けたん?」

きゅうりをお箸にはさんで捨て男にきく。

「マイ糠床持ってきたもん。」

指差す先には、なるほど、小ぶりやけど年季の入ってそうな漬物樽。
こんな格好して、漬物樽持ってきたんかと思うと可笑しい。

「うちのおじいはんの形見や。」

と捨て男。

ちょっと二日酔いのもやのかかった頭に昨日の晩のことが浮かぶ。
捨て男のおじいさん。
何か、僕のせいで死んでしもたとか、そんなことを言うてへんかったっけ?
聞いてもええんやろか?

「おじいちゃん、何で亡くなりはったん?」

やっぱり聞いてもうた。

「え?陽子さんから聞いてないのん?」

とちょっと意外そうな捨て男。

聞いてるも何も、あたし、捨て男の存在すらおとといまで知らんかったのに。

「だって、つきあうてる人がいてるのんも知らんかったもん。」

「ああ、だって、つきあうてなかったもん。」

しらっと笑顔で言う捨て男。

何、何、何?
つきあうてなかったん?

「え、でも、昨日は知り合うて5年ぐらいって言うてたやん。」

「ああ、それはただの知り合いや。
もちろん俺は・・・いや、僕は初めて会った時から陽子さんのこと、ええなぁって思うてたし。
会うたんびにくどいてたけど、全然相手にされてる感じやなかったしなぁ。」

箸でアカンアカンのゼスチャーをする捨て男。
ほんで、いきなり結婚、いきなり同居ってどういうことなん?
二日酔いの頭には、さばききれへんねんけど。

「・・・・俺もびっくりした。
一昨日の晩、陽子さんが、はい、結婚しましょって言うたとき。」

どうなったんやろ、オカン。
年下男の熱についにほだされた?
あのオカンが?
首をひねるあたしの前で、まぁ、俺の魅力についに陽子さんも気づいてくれたってことかなと能天気に笑う捨て男。
ますます説得力なし。

捨て男のおじいちゃんの話しをしてたのに、話しがそれてしもた。
もう一回はききにくい。

それに、まだ湯気の立つ朝の幸せを並べたようなテーブルごしの捨て男は、これまた幸せそうに笑うてて、きっと辛い話であろう話は別に今せんでもええかと思うたり。

もぐもぐ、ぱくぱくと、テーブルの上の幸せが胃袋におさまっていく音がひびく。

「あ、そうや、ハチのご飯もこれから俺が作るわ。
ドッグフードばっかりやったら身体にようないで。」

と思い出したように捨て男が言う。

・・・なんかハチへのあたしの愛情にケチつけられたみたい。

「でも、そのドックフード、獣医さんがすすめてくれはったやつやもん。」

声にとげとげが出る。
ハチはあたしの弁慶の泣き所。

「いくら獣医さんがすすめはっても、缶詰やんか。
犬かて出来たてのご飯食べたいよ。」

そう言われたら返す言葉ない。

「今日、散歩にいったときも、なんかちょっと具合悪そうやったし。」

え?
具合が悪い?
気持ちがザワザワ波立つ。

ハチはほんまに、あたしの弁慶の泣き所。
テーブルの下をのぞきこむ。
ゴロンと寝転んで、さっき風呂場で洗うてもうた前足を、口元にもってきて、ぺろぺろなめてる。
いつもの平和なハチ。
それでも

「どんな風に具合悪そうやったん?」

と聞く声に不安がにじむ。

「ううん、何かちょっと、おしっこが出にくそうな感じやった。
ぴょんと足をあげんのにほとんど出えへんねん。」

昨日の朝は普通に見えたけどなぁ。
夜はオカンが散歩につれてったはずやけど、どうやってんやろ。

「いやいや、そんな心配せんでも。
俺と散歩行くのん初めてやから、何か緊張しとったんかもしれんしな。」

そうかなあ、それやったらええんやけど。
もう一度テーブルの下を覗き込む。

ねえちゃん、どうしたん?
という風にハチが顔をあげる。
いつものあたしを見上げるおだやかな目に少しほっとする。

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コメント

ほほ~月ちゃんと捨て男の2ショットやん!
いやぁ分かるよ、月ちゃん!胃袋欲は理性を超える★
ここでまた、おじいはんがKEYパーソンね。
妄想に耽る今宵ですわぁ。

投稿: luna | 2008年3月27日 (木) 04時09分

捨て男の点数またまたアップ↑
マイ糠床を持ってるなんてさすがですよね。
私も朝から旅館のご飯みたいなの食べたいな〜
ますます北村一樹さんとダブってきました。
弁慶の泣き所のハチ、大丈夫かな…
とても気になります。何かあったら悲しすぎ。

投稿: Bikkyママ | 2008年3月27日 (木) 09時12分

ハチ!@@
私も凄く気になるぅ。。
私にとってもハチは弁慶の泣き所かも^^;
ぬか床持参のおしかけ捨て男。。どうなってるの?
ワクワクドキドキですっ。

投稿: こむぎママ | 2008年3月27日 (木) 09時45分

コメントありがとうございます。

私にとってもハチは弁慶の泣き所かもしれません。

続きをまた覗きにいらしてくださいね。

投稿: 咲乃月音 | 2008年3月28日 (金) 14時23分

う~~ん、いい感じですね、捨て男。
やさしいというか、愛情深いというか、そんな面が見えてきて、先生より
捨て男が好きになってきてます。

投稿: かなりん | 2008年3月31日 (月) 16時03分

コメントありがとうございます。

そうですね。 私も捨て男かな(笑)

またお立ち寄りくださいね。

投稿: 咲乃月音 | 2008年4月 2日 (水) 17時32分

秦皇岛都市网,引导港城消费新生活

投稿: 秦皇岛 | 2009年3月13日 (金) 10時18分

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