« #7 桃栗3年柿8年 | トップページ | #9 ふたりっきりの家族 »

#8 第一印象最悪かも

テーブルの片方にはオカンと捨て男。
向かいあって、あたしとサク婆。
テーブルの足元にお座りする行司のハチ。

はい、見合って、見合ってぇ。

目の前におかれた湯気立てたコーヒーからは、ええ香りが立ち昇ってるけど、だあれも口つけへん。
サク婆も額に皺いかせて、むっつり目の前のコーヒー茶碗を見てるだけ。

しゃべったら負けの我慢大会みたいやん。
そんなん参加した覚えもないのに。
棄権させてもうて、ええやろか。

さっき、サク婆の第一声、そちらはどなたさんという言葉に、オカンと捨て男がはねるように、テーブルから立ち上がった。

「こちら、服部研二さん。
もうすぐ結婚しようと思うてる人なんです。」

空気が切れそうな凛とした声でオカンが言うた。
本気の声やった。

聞いたサク婆の方は目に見えてうろが来て、腰がぬけたように椅子にへたりこんだ。

それがもう、かれこれ10分以上も前のこと。
慌てたように、あたしが台所に立ってお湯を沸かし、それが楽しみでやってくるサク婆にコーヒーをいれ、またテーブルについてもまだ、みんな黙ったまま。

ふぅぅぅぅ
と溜息をついた後、サク婆がようやく口を開いた。

「陽ちゃんと、ちょっと二人でしゃべらせてくれへんか。」

あたしらの返事も待たず、サク婆はよっこいしょと立ちあがって、すたすたと茶の間を横切り、裏庭に面したちいちゃい縁側に座りこむ。
ちょっとためらった後、オカンもそれに続いて、ぺたりとサク婆の隣に座り込む。

サク婆のきりりと結い上げた髪と、オカンの好き放題な方向を向いてるクルクルの髪の毛。
全然ちゃう二人の後姿が、外から射す光の中、おんなじ色にふちどられる。

しゃあないな。
あたしは後片付けでもして、朝風呂にでも入るか。

ノロノロとコーヒー茶碗を手にとったら、目の前の捨て男と目があうた。

そうや、こいつがまだおった。

「とりあえず帰ってもらえますか。」

「なぁ、あれがサク婆さん?」

・・・人の話しを聞いとんのか、この男は。
あたしは帰ってもらう話しをしてるねん。

「そうやけど。」

自己最高の不機嫌低音声で答える。

「いやぁ、俺、第一印象最悪かも。
俺、第一印象運ないねんなぁ、いっつも。」

かもやなくて最悪や。

だいたい、あんたの悪運の話しなんて、あたしは興味ないっ。

「でもな、二回目はばっちりやねん。
二回戦の研ちゃんって呼ばれるぐらい。」

「あのねぇ、
言わせてもらうけど、昨日の晩が初めてやとしたら、今朝これが二回目。
印象、まだ最悪やけど。」

「きっついなぁ。
顔はあんまり似てへんのに、性格はよう似てんねんな。
さすが母娘やな。」

全然こたえてそうにもないニカニカ笑いの捨て男。

「たまには、そんなこともあるねん。
でもな、野球も9回あるやろ。
その後も延長戦っていうのんがあるやんか。
俺な、粘りの研ちゃんとも呼ばれてるねん。」

ほんまに、あほか、この男。
それに、あたしはネバい男は好かん。

「まぁ、せいぜい、
コールドゲームにならんようにね。」

言い捨てて台所を出る。

「お、もしかして野球くわしい?
嬉しいなぁ。
今度一緒に甲子園行こ。」

捨て男の声が追ってくる。
オカン、この能天気な男と結婚なんて冗談やんな?
納得いかん気持ちを足にどすどすこめる。

古い廊下がミシミシきしむ。
ハチが足元にまとわりつくようについてきた。
チャカチャカチャカチャカ。

ふぅぅと浴槽に身をしずめる。
いつも朝風呂に入る。
今日は色々あったから、いつもよりちょっと遅い。
朝昼兼用風呂?
そんな言葉あるんかなぁ。

築30年の家と同じように古いお風呂。
ほんでも家事能力ゼロのオカンが唯一まめにする風呂掃除のおかげで、古くても、よく磨かれた清潔な空間。
今風の足が伸ばせるような浴槽やなく、間口がせまく深い浴槽。
ここに足を曲げて、すっぽりおさまると安心感が胸に広がる。

洗い場では尻尾をきれいに丸くまいて、お座りしたハチ。
不思議な子や。
自分がお風呂に入れられるのは大嫌いやのに、あたしのお風呂には必ずついてくる。

あたしが湯船につかったり、洗い場で身体を洗うのを、お座りしたまま、神妙な顔で見てる。
けっして広いお風呂やないから、泡や水がかかってしまうのに、それでも、置きもんのように、チンと座って見てる。

まだ、オカンとサク婆はしゃべってるんやろか。
捨て男はもう帰ったやろか。

あたしかて、オカンには幸せになってほしい。
別に死んだ父に操を立ててなんてこと、思うてない。

さっき朝ごはんの時に泣きそうになったんは、オカンが結婚することやなく、相手が捨て男やということでもなく(いや、ちょっとあるかも)、オカンが捨て男のこと、5年もの間、あたしに何にも、一言も言うてくれへんかったから。

|

« #7 桃栗3年柿8年 | トップページ | #9 ふたりっきりの家族 »

ココログ小説」カテゴリの記事

コメント

縁側でサク婆とオカンが何を話してるのか気になる~。
研ちゃん、確かに第一印象最悪なんだけど
どこか憎めないキャラだわ。
どうぞコールドゲームにならないように。
カチャカチャと後をついて来るハチ、可愛いですね。

投稿: Bikkyママ | 2008年3月 3日 (月) 18時29分

だいたい、ケンちゃんっちゅうやつは、第一印象ようないもんよ。
じわじわっと味が出て来る!(笑)
最初5話で、その後1話ずつの更新やと、イラチの私はいいいいいいいってなるわ(笑)
続き、たのしみたのしみー!

投稿: 殿下と妃殿下 | 2008年3月 3日 (月) 19時32分

ハチ、本当にかわいい性格の犬ですね♪
サク婆とオカン、髪型にもしっかり個性が出ていますね。
縁側に並んで座っている様子が目に浮かんできます。
私も話の内容が気になります。続き、楽しみです!!

投稿: 神戸のかものはし | 2008年3月 3日 (月) 22時33分

夜中にもっかい7話を読み返そうと開けたら、あら8話!!ラッキー♪
サク婆、陽ちゃんのオカンみたいですね。
ええなぁ、そんなお隣さん。
KY(いっぺん使ってみたかった)な捨て男。(まだ研ちゃんって呼んであげませんの、わたしも。)
アカン、どう贔屓目に見ても軽すぎます。はよ、ええとこ見せてほしいなぁ。

投稿: こい | 2008年3月 4日 (火) 05時53分

研ちゃんというだけで、つい頭に
沢田研二と羽賀研二が浮かんでしゃ~ないねんけど、
何れも淫靡な雰囲気♪
北村一輝にしろ、淫靡♪
実は、こういうのに弱いんよね・・・と引き込まれてます。

投稿: luna | 2008年3月 4日 (火) 10時45分

出だし遅れてしまいましたが一気に読ませていただきました、月音さん!
いやぁ~、面白いです。
うるうるしながらもあっという間に読んでしまいました。
研ちゃんの顔は完璧一輝ちゃんになってます(笑)。
まるでドラマを観ているかのように光景がはっきりと浮かびますわぁ。

明日の更新、楽しみです♪

投稿: かずみ | 2008年3月 4日 (火) 22時38分

研ちゃんがmeimeiの中でジュリーか一輝さんというイメージになってしまいました。
そういえば、昔叔母が飼っていた猫がハチみたいにお風呂についてくる猫でした。で、湯船にたまったお湯をチョットだけ触るという謎の行動を繰り返してました。
続き、楽しみにしてます☆

投稿: meimei | 2008年3月 5日 (水) 01時47分

うげ~~、月曜日、ワタワタしてたら、よ見逃して水曜日になってしまってました~~~。
今日のアップ楽しみです。^^
ハチの描写よかったですね~。犬ってやっぱりいいわ。
サク婆は月ちゃんの家族みたいな扱いなのかな~、いっつも出入りしてるみたいでもしやサク婆がカギ握ってたり???
これからが楽しみです。

投稿: かなりん | 2008年3月 5日 (水) 10時43分

コメントありがとうございます。

みなさまの鋭さにどっきりしながら読ませていただきました。

私の中の登場人物のキャラクターの設定が

思ったよりも、みなさんにしっかり伝わってるようで

嬉しいです。

また引き続き読んでいただけたら嬉しいです。


投稿: 咲乃月音 | 2008年3月 5日 (水) 14時10分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/506879/40356219

この記事へのトラックバック一覧です: #8 第一印象最悪かも:

« #7 桃栗3年柿8年 | トップページ | #9 ふたりっきりの家族 »