« #22 サク婆のお好み焼き | トップページ | #24 聞いてええんやろか »

#23 素直にありがとう

サク婆はいつも真っ直ぐ公平に物事をみようとする。
見てくれや、肩書きや、そんなもんからの先入観を持たんと、出来るだけ真っ白な気持ちで人間と向きあわなアカンでとサク婆はよう言う。
ほんだら、その人間のほんまのとこがよう見えてくるって。

その昔、二十歳、無職、その上独り身で腹ぼてのオカンに、ただ一人手をさしのべてくれたサク婆。
あんたのお母さんな、駅のホームでもう死んだろかなっていうような気持ちの時でも、あたしが困ったふりしたら、ぱっと正気にもどってとんできたやろ。
あたしはちょっと気をそらそうと思うただけで、あんたのお母さんが寄ってくるとは思うてなかったんや。
他にも周りに人はおったしな。
ほんでも、とんできて一番にあたしの手をとったんは、あんたのお母さんやってな。
この娘は性根のええ娘やと思うたんやと、これもサク婆から何度も聞いた話し。

そんなサク婆がどうやら捨て男のことを気にいったらしいのを見て、あたしの中の捨て男の評価、そんなに悪い奴やないかもというのんが、ちょっとええ奴ぐらいに上がったかも。

「ふつつかもんですが、よろしくお願いします。」

と妙な挨拶をしてぺこりと頭をさげた捨て男。

「何やの、えらい固い挨拶をして。」

と言いながらも、まんざらでもなさそうに、ニッカリ笑うたサク婆。
その前歯には青海苔がついてた。 

食べ終わったお皿をかちゃかちゃ洗う捨て男。
相変わらずの赤シャツにリーゼント、腰には板さんが使うような白い前掛け。
サク婆の割烹着と同じぐらいにキリリとした結び目。
変な格好のそこだけに漂う職人さんの気配。

手伝うというあたしに、これは俺の仕事やからと頑としてゆずらず、無駄のない動作で立ち働く捨て男を、テーブルから見るともなく見てるあたし。

「ありがとう。」 

その後姿に声かける。

「え、何が?」 

と振り向く捨て男。

「いや。ハチのこと助けてくれて。」 

前掛けの隅の『割烹 服部』のちいちゃい縫い取りに目がとまる。

「病院ついていっただけやんか。
助けてくれたんは獣医さんやんか。」

なあハチと、流し台の側でお座りして、捨て男をじっと見上げてたハチに目をやる。
(えらいなつきようや。)
返事するようにハチの尻尾がゆれる。

「いや、そんなことないよ。
あたし、ハチが具合が悪うなったんなんて初めてで、頭がひくり返ってしもたもん。
すごい声にびびってしもて、よう抱きあげもせんかったし。」

あの風呂場にひびいたハチのギャオオオオオオンと言う悲痛な声が耳によみがえってくる。
捨て男がいてへんかったら、あのまま、あたしは風呂場にペタンと座り込んでしもて泣くばっかりで、ハチの膀胱はめげてしもてたかもしれん。

「そんな神妙な顔せんと。無事やったんやし。」

キュッキュッと気持ちのええ音を立てて、捨て男の手の中で磨かれてくお皿。

「そういうとこ、陽子さんと一緒やな。」

笑いながら振り向く捨て男。

え?
どういうとこ? 

「そういう、素直にありがとうとか、ごめんなさいって言えるとこ。
言葉は簡単やのに言うのんは難しかったりするやんか。」

こういうことを照れんと言えるんって、よっぽどのたらしか、能天気か。
どっちやろう? 
まぁ、どっちでもかまへんか。
ハチの命の恩人には違いない。

お前も素直で、かいらしなぁ
と、足元のハチの耳の後ろをしゃかしゃかと掻いてやる捨て男。

それに応えるようにハチがふる尻尾が床をうつパタパタという音が、耳に心地よかった。

|

« #22 サク婆のお好み焼き | トップページ | #24 聞いてええんやろか »

ココログ小説」カテゴリの記事

コメント

心にしっとり来る文章を描くなあ・・・と感動しっぱなし。

割烹服部・・・・

展開がどきどき。


うちも、ごめんなさいとありがとうだけは、ちゃんと言いなさいって言う感じに育てられたなあ。

投稿: でんか | 2008年4月 7日 (月) 16時03分

ほんわかあったかい気持ちになります。
映像も見えています。
展開も微妙に変わり次回が楽しみ!。
すっかりはまって読んでいます。

投稿: Y子 | 2008年4月 7日 (月) 17時07分

なんかみんなとってもいい人に見えてきて
暖かい気持ちになりました。
素直にありがとうが言えて月ちゃん良かったね。

投稿: Bikkyママ | 2008年4月 8日 (火) 07時28分

素直にごめんとありがとうが言える人に!@@
勉強になります。
私も意地っ張りでなかなか言えなかったりします。汗
気を付けなきゃ。

投稿: こむぎママ | 2008年4月 8日 (火) 11時22分

コメントありがとうございます。

素直にありがとう・・・私も中々いえないかも(笑)

自分にない素直なところを、月ちゃんに替わってもらってる感じです。

またお立ち寄りいただけたら嬉しいです。

投稿: 咲乃月音 | 2008年4月 9日 (水) 14時01分

いいですね~~。陽子さんがサク婆を助けようとわが身顧みず駆け寄ったエピソードも、捨て男のキリっとした様子も。会話も。
なんか、だんだん溶けていく様子がほんわかしていて、居心地いいです。

投稿: かなりん | 2008年4月12日 (土) 11時43分

コメントありがとうございます。

犬は自分に愛情をもってくれてるのがわかるんでしょうね。

またお立ち寄りくださいね。

投稿: 咲乃月音 | 2008年4月14日 (月) 14時32分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« #22 サク婆のお好み焼き | トップページ | #24 聞いてええんやろか »