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#28 夜中の月見酒

次の土曜日にはもう、オカンと一緒に衣装あわせに行った。
さすが鉄は熱々のうちに打ちまくらな気がすまんオカンやなあと、その手配の素早さに感心した。

あの晩家にもどってすぐに、オカンが捨て男に白無垢の話しをしたら、冷蔵庫から、今日のデザアトオオと変な掛け声と一緒に取り出しかけてたわらび餅を(もちろん捨て男の手作り)あやうく床に落としかけた捨て男。

あわわ、わらび餅がぁと慌てたあたしらの前で、セーフで救われたそれを手にもったまま、今度はやったああああという奇声と一緒にグリコのマーク。

捨て男の頭上の小鉢の中でぷるんぷるん震えてるはずの
わらび餅を思うて、気が気じゃなかったあたし。

ほんまにほんまに陽子さん、
俺と結婚してくれるんや
と気持ち悪いほどの笑顔の捨て男。

何を言うてんのん、
もう一緒にも住んでんのに
とオカンは笑たけど、
いやあ、また追い出されるかもしれん
と、実は毎日どきどきしてたと言う捨て男の目はちょっと潤んでたりして。

明日は赤飯と鯛の尾頭付きやと、もう明日が結婚式のように舞い上がってた。
その興奮がうつって、また捨て男の周りをぴょんぴょんとび跳ねるハチ。

なんか最近にぎやかな我が家や。

陽子さんが白無垢やったら僕はもちろん羽織袴かあと、これまた目尻をさげてた捨て男の衣装合わせはさっきした。
悔しいが意外に似合うてた。
どう見ても白のタキシードとかが合いそうな濃い顔やのになぁ。
似合うもんやなぁ。
ま、時代劇の役者さんってそう思えば顔濃いかも。
濃くてヘラヘラした顔がきりっと見えるから袴って大したもんや。

もちろん一緒に来てるサク婆も、馬子にも衣装やないのと褒めたぐらい。

髪型がもうリーゼントやなくなったっていうんもあるやろな。
いくら何でも羽織袴にリーゼントはお笑いになってまう。

そうそう、捨て男の髪は今朝からリーゼントやなくなった。
赤シャツも、もう着てへん。

その日がすむまではって言うてた家政婦をしてたおばあちゃんの初七日が、おとといやったらしい。
何にも言えへんから知らんかったけど。

その、おとといの晩、夜中にのどが渇いて台所におりていったら、裏庭に捨て男が立ってた。
一瞬、泥棒かと体がこわばったけど、暗がりでも目立つその赤シャツは捨て男に違いない。

ぴくりとも動かへんその後姿におそるおそる近づいてったら、一心に手を合わせてた。
その肩が小刻みに震えてるような。

捨て男の周りにはりつめられた、しいんとした空気を乱したらあかんような気がして、
声はかけんと、そのまま、そおっと部屋にもどろうとした。

一緒に起きてきたハチが、
どないしたん?ねえちゃん
と足元で見上げてるんに、
しいいいいっ、部屋にもどろう
と身振り手振りで合図したけど、さすがにその気配で捨て男が振り返った。

泣いてた。

「月ちゃん、起きてたんか。」

ちょっと慌てた風にシャツの袖で目をぬぐいながら、ぎこちなく笑う捨て男。 
お月さんの光がしんしんと捨て男の上にふる。

「喉渇いて目ぇ覚めてん。」

自分のいつもの声が夜の静けさにひびくみたいに聞こえる。

「ほんだらちょっと一杯やる?」

くいっと杯をあげる仕種の捨て男。
ちょっと迷ったけど、夜中の月見酒もええかも。

よっしゃ、飲もか。
何飲む?缶ビールでええ?
取ってくるわ
と言いながら台所に入る。

冷蔵庫を開ける。
夜中の冷蔵庫って宇宙船みたい。
電気をつけん真っ暗な台所にそこだけぽっかり扉の向こうからもれる黄色い光。

キンキンに冷えた缶ビールを2本もって縁側にもどる。
プシュッとプルトップをあけて、ちいちゃく乾杯。

オカンの旦那になるってことはあたしのお義父さんになるってことやねんなあと思うと不思議。
思わずしげしげと捨て男を見る。

「何? 今日も男前?」

ポーズを作ってニカっと笑う捨て男。
さっき泣いてたんは見間違いかなぁ。

「いや男家族が出来るんやと思うとなんか不思議な気がしてさ。」

「え、月ちゃん、俺のこと家族って認めてくれたん。」

何でこの人、こう照れもせず手放しで嬉しそうな顔ができるんやろ。

「認めるも何も。オカンは言い出したら絶対聞かへんしさ。」

なあ、ハチと、そばで寝そべるハチの背中をなでる。
尻尾だけがパタンパタンと返事する。

「陽子さんのそういうとこがまたええなぁ。」

と目尻を下げる捨て男。
このわかりやすさ。
この人いくつやねんやろ。
そう言えば歳も知らんわ。

「捨て男って、歳いくつ?」

「今年30。」

うそ! 
あたしと5つしか変われへんやん。
そんな若い人がもうすぐお義父さん?

「30やなんて、オトウサンっていうより、オニイチャンやん。」

「娘もええけど、妹もええなあ。
俺、ずうっと兄妹ほしかったんや。」

「え?でも名前はケンジやろ?次男坊かと思うてたけど。」

「ちゃうちゃう。俺の研二は沢田研二の研二。
オカンがジュリーの大ファンやったからさ。」

「ははは、それまた軽いオカンやなあ。」

なんか捨て男のオカンらしいと思いながら笑うあたし。

「うん、ほんまに軽いオカンでなあ。
俺のこと産みっぱなしでどっかに行ってしもたんや。」

あはあは笑う捨て男。
あたしの笑いがこわばった。
そうや、おじいさんと二人暮しやったって聞いてたのに、そこには事情があるはずやのに、
自分の考えの浅いのんがいやんなる。

「ごめん。しょうもないこと言うて。」

慌てて謝ったあたしに、

「いやいや、ええよ。ほんまの事やし。」

と顔の前で手をふる捨て男。

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コメント

孫にも衣装、ではなく馬子にも衣装 です。
せっかく素敵な小説を書かれるのに、こういう誤字は残念です。

投稿: 間違いです | 2008年4月18日 (金) 20時53分

捨て男は、いろんな苦労をしてるんだね。その分、人に優しくできる思いやりのある人なんだろうな・・・おかんと捨て男の結婚式、どんなになるんか楽しみ☆

投稿: ちはや | 2008年4月19日 (土) 00時09分

あの捨て男が泣いてたんだ…
おじいさんの事もあるけど
なんか凄く気になる。
オカンもそうだけど捨て男もいろいろ苦労してそう。
あ〜どうぞこのまま幸せになって欲しいなぁ…と思うけど
まだ続きに何かあるんだろうな。楽しみにしてますね。

投稿: Bikkyママ | 2008年4月19日 (土) 01時20分

ここまで一気読みしてコメントするのを忘れてしまってたbomb研二のよぅな悲しい事 辛い事 たくさんの事を背負って生きてきた人ほど 周りの人を暖かく包んでくれるような気がするなぁ

投稿: こと。 | 2008年4月20日 (日) 01時29分

The story is interesting, I think. However, the print edition out soon will have lots of new twists!I am sure everyone is sooo excited!

I am too since I get to retire from the proceeds.

Happy readings,

Love

Kegani

投稿: Kegani | 2008年4月21日 (月) 01時03分

コメントありがとうございます。

誤字、本当にお恥ずかしいかぎりです。 ご指摘ありがとうございました。

辛いことがあるから優しくなれる・・・まさしく、そういう人間になりたいなぁと

思いながら、研二のことは書いていました。

またお立ち寄りいただけましたら嬉しいです。

Thank you for you comment. I am happy to hear that you enjoyed my story.

投稿: 咲乃月音 | 2008年4月21日 (月) 13時57分

捨て男のこんな様子なんかを見ていると、一気に本で読みたくなります。

投稿: かなりん | 2008年4月21日 (月) 22時40分

コメントありがとうございます。

月見酒、いいですよね。

残念ながら、最近、そういう機会はありませんが

いつかしてみたいです。

またお立ち寄りくださいね。

投稿: 咲乃月音 | 2008年4月23日 (水) 14時22分

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