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#24 聞いてええんやろか

「ふうん、じゃぁ、服部君は、月ちゃん的には合格なんや。」

熱々のお絞りを持て余すように右手から左手、左手から右手へと、ちいちゃくキャッチボウルするように投げもって、センセイがニッコリ笑う。
楽しそうな目。

「合格っていうか、最初の印象が悪すぎたやもん。」

今さっき、センセイに話した昨日の出来事を頭の中で反芻する。

「最初の印象ねえ。
僕は全然悪うなかったけどなぁ。」

運ばれてきた先付けの、滑りのええ筍の薄い身を箸先でとらえる器用な指先。
お箸の先まで神経が通ったようなその滑らかな動きに比べて、つるつるとした筍の身を何度もとらえそこねてる自分がひどく不器用な人間のような気がする。

それは抱かれてる時でも一緒のようで、やすやすと自分という人間をとらえてしまうセンセイの腕の中で、しっかりと背中にまわした手とは裏腹に、とらえきれへんもんをセンセイの中に感じてしまう心もとない気持ち。

「あれから、ちょっと考えててん。
服部君とは、やっぱりどっかで会うたことあったなぁって。」

いつものように、お水の入ったぐい呑みをかたむけるセンセイの目には酔いのかけらもなくて、日曜日にうちの居間でかっけふー、かっけふーと自分で掛け声をかけながら、せわしないバッティングの物真似をしてた人とは思われへん。

「服部君のお祖父さん、島崎さんに入院してはったんとちゃうかな。」

頭の中で、現役の頃には見たことのないミスタータイガースと、居間で見えへんバットをふってたセンセイの姿を重ねてみようと焦点をしぼってたあたしやったけど、思わん言葉に目の前に焦点がもどる。

「え?それ、まだ、うちのお母さんが島崎病院で働いてたとき?」

「うん、そうやな。確か5年か6年ぐらい前のことや。」

頭の中で何かがカチッと合う音がしたような気がした。
合うた先に見えた答えを確かめてもええんやろうかと立ち止まる。

捨て男が言いたくなさそうにしてたことを、こんな風にちゃうとこで探るようなことをしてええんやろうかという気持ちと、確かめたい気持ちと、心の中のはかりにかける。
ゆらゆらと戸惑うように揺れてたはかりが、かくんと傾く。
確かめたいという目盛りの方に。

「何の病気で入院してはったん?
捨て男のおじいちゃん。」

手元でゆっくり廻してるぐい呑みに目をあてながら、センセイが一瞬目をしばたかせる。
自分から始めた話題やのに、言いよどんでる。

「服部君からは、まだ何にも聞いてない?」

何にもというのを微かに首をふってしめす。 
言うてええんやろかという気持ちと、聞いてえんやろかという戸惑う気持ちが、センセイとあたしの間に横たわる。
あたしが目でうなづくのんを見て、センセイが話し始めた。

捨て男のおじいさんの入院してたんは、介護病棟やった。
それもオカンが勤めてた重度要介護の。

冷え込んだ日が続いた後の、久しぶりに日差しがやわらんだ日、センセイが休憩時間に中庭に出たら、車椅子を押されて散歩に出てるお年寄りと、その付き添いの若い男の人が目にとまった。
ほころびかけた梅の枝を黙って見上げてた二人の後姿に、今日は久しぶりに気持ちのええお天気ですねぇと声をかけたセンセイ。
ちょっと驚いたように振り返った車椅子の後ろに立つその顔に、何か見覚えあるような気がした。
前に診たことのある患者さんかなぁって思いながらも、車椅子に座るそのお年寄りに、初対面の患者さんに挨拶するつもりでかがみこんだ。
はじめまして、リハビリの村上ですと言う言葉にお年寄りの反応はなかった。
にごった黄色い目には光がなく、そのひざの上に乗せられた右手がちいちゃく、そのひざを叩くように動いてた。
トントントンとリズムをつけて。

認知症、それもかなりすすんだ認知症の患者さんみたいやった。
かがんだまま、それでもセンセイはもう一回、こんにちは、リハビリの村上ですとそのお年寄りのひざに手をおいた。
お年寄りの手のリズムはやっぱり変わらへん。
手の動きにおされて、ひざ掛けがちょっとずれた。
その下からのぞく白い前掛け。
隅にちいちゃく『割烹 服部』の縫い取り。

思わず目をあげると、車椅子の横に立つ青年が目をあわせる間もなく深く腰を折った。

「ご無沙汰してます、村上先生。その節はお世話になりました。」
と。

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コメント

へ~こんな所でつながりがあったんだ。
先生と捨て男は昔出会っていたんですね。
お祖父さんがなぜ亡くなったのか
次回わかるのかなぁ?
なんか続きが早く見たいです。

投稿: Bikkyママ | 2008年4月 9日 (水) 22時09分

ほぉ~、凄い偶然ですね。
お祖父さんにも優しい捨て男!
先生と月ちゃんの今後も気になります。
早く次が読みたいなっ。

投稿: こむぎママ | 2008年4月10日 (木) 10時13分

お~~割烹 服部の大将が明らかになったのと
センセイと服部家、何や古くから縁があったてか!?
今夜も妄想で寝付けないわん・・・

投稿: luna | 2008年4月11日 (金) 00時27分

コメントありがとうございます。

だんだんとパズルのパーツがはまりだした感じです。

またお立ち寄りいただけたら嬉しいです。

投稿: 咲乃月音 | 2008年4月11日 (金) 17時41分

今回は先生と捨て男のかかわりが見えて、意外な展開になってるっていうんでしょうか。
そんなまえに知り合いやったのや、とここに出てくることがさすがやと思いました。

投稿: かなりん | 2008年4月12日 (土) 11時48分

コメントありがとうございます。

オカンと捨て男、おじいさんとセンセイ、みんな病院つながりだったんです。

また続きを読みにきてくださいね。

投稿: 咲乃月音 | 2008年4月14日 (月) 14時33分

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