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#29 家族になるねんもん

結婚に反対した捨て男のおじいさんを振り切るようにして、捨て男のお母さんが家を出たのはまだ捨て男のお母さんが18の時やったらしい。

捨て男のお母さんのお母さん、つまり捨て男のおばあちゃんとも早くに死別して、捨て男のお母さんを男手一つで育ててたおじいさんには晴天の霹靂やった。

今日か明日かとそれでも捨て男のお母さんからの連絡を待ちわびてたおじいさんの前に、まだ3つになるかならんかの捨て男の手を引いて、捨て男のお母さんが現れたんは家を出てから5年ほど後やった。

嬉しさと戸惑いと腹ただしい気持ちで、すぐに言葉が出えへんおじいさんに、つないでた捨て男の手を押し付けるようにして、
違う人と一緒になることになってん。
その人、子供嫌いやから、
この子の面倒、お父ちゃんが見たって
とまくしたてて、引き止める間もないうちに、少し離れてたとこに待たせてたらしいタクシーで走りさってしもた捨て男のお母さん。

捨て男はその時のことはあんまり覚えてないんやけど、タクシーを降りた時にお母さんが捨て男の両肩に手をおいて目をじいっと見ながら言うた言葉は覚えてた。
ケンちゃんは今日からおじいちゃんと一緒に住むねんで。
おじいちゃん、板前さんっていうて料理を作りはる仕事してはるからな、
美味しいもん毎日食べさせてもらいやっていう言葉。
それ聞いて、そうかあ、これから毎日、美味しいもん食べられるんやあと嬉しかったんや俺、呑気なガキやろ?と笑う捨て男。
あたしも一緒に笑おうとしたけど上手くいかへん。

「おじいはんはな、孫の俺が言うのんも何やけど、格好のええ人でな。
しゃきっとしてて、曲がったことは大嫌いで、頑固で。
ほんでも情が厚うてなぁ。
浪花節を絵に書いたような人やった。」

ほんまに、おじいさんのこと好きやったんやろうなぁというんが、捨て男のあったかい声の調子からにじんでる。

「俺のオカンが言うたんはほんまで、毎日、そら美味しいもん食べさせてくれたわ。
でっかい魚を手品みたいに綺麗にさばくんみて、格好ええなぁて思た。
俺も大きなったら板前になりたいなって思た。
いっつも魚さばく前は、必ず手を合わせてからおろしてて、
おじいはん何してんのんって聞いたら、
食べるっていうことは命をわけてもらうことや。
大事な命をわけてくれておおきにって
感謝のしるしでこうやって手を合わせるんや。
ケン坊もな、食べる前にはちゃんと頂きます、
食べた後にはご馳走様って手を合わせるねんぞ。
命をわけてくれたもんと、
それを作ってくれたもんに感謝の気持ちを忘れたらあかん、
ほんで絶対食べもんを粗末にしたらアカン
ってよう言うとったわ。」

「ええおじいちゃんやね。」

食べるということを大事にする人間をあたしも尊敬する。

「うん。ほんまにええおじいはんやった。」

ちょっと捨て男の声が潤む。

「ええおじいはんやったのに・・・・俺のせいで死んだようなもんや。」

搾り出したような捨て男の声の調子に一瞬なんて言うたらええんかわからへんかったけど、やっぱり聞いてしまう。

「それ何でか聞いてええ?」

両手でビールを持ってた捨て男の指に一瞬力が入って、パコと缶がしなる音がする。

「話すの辛かったらええねん、ええねん。」

慌てて自分の言葉をかき消そうとしたけど、自分の手元に目を落としてた捨て男が、顔をあげる。

「いや、聞いてもうといたほうがええねん。月ちゃん、僕の家族になんねんもんな。」
そう前置きして捨て男は話し始めた。

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コメント

え〜今日はここで終わりなん?
早く続きが読みたくて読みたくて!
捨て男はこんな小さい時にお母さんと離れたんだ…
なんか別れ方も辛いですね。
でもおじいさんが優しい人で良かった。
きっと捨て男が今のように思いやりのある人になったのは
このおじいさんのおかげなんだろうなぁ。
おじいさんは捨て男のせいで亡くなったの?
何があったんだろう…?
読むのが辛いけど気になります。

投稿: Bikkyママ | 2008年4月21日 (月) 21時05分

ええ~、ここで終わるとは、まとめ読みの私なのですごい気になります。
また、なんか色が変わっていくのでしょうか。

投稿: かなりん | 2008年4月21日 (月) 22時42分

月ちゃん どんどん研二に打ち解けてって 心のバリケードなくなりつつあるなぁbud前は研二を見た目やら、すべてにおいて毛嫌いしてたけど今は研二の事を知ろうとしてるhappy01研二の 心に しょってる悲しみのカタマリが ゆっくりとけて行けたらぃぃなぁclover

投稿: こと。 | 2008年4月22日 (火) 00時36分

大事な命を分けていただいてありがとうございます。
そう思って、いただきますと言ってない私に気づかされます。

投稿: まりかず | 2008年4月22日 (火) 18時06分

ほのぼのとした描写が、心に染みます。

きっと、せつない物語なんやろなぁー。

投稿: みちまー | 2008年4月23日 (水) 00時45分

コメントありがとうございます。

みんな、色んなものを背負いながら生きているんだなぁと

そんなことを思いながら書いた章のような気がします。

またお立ち寄りいただけたら嬉しいです。

投稿: 咲乃月音 | 2008年4月23日 (水) 14時25分

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