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#33 家政夫はジェームスディーン

ほんでも、こんなことになったんは全部自分のせいや、俺さえおらんかったら。
おばあはんにも、こんな辛い目させてと崩れる捨て男に、
バカタレ!あんたがおらんようになっても、幸造さんもお店も帰って来えへんっ、
私に悪いと思うなら、しっかり生きて。
ほんで幸造さんが研ちゃんに伝えた料理を、
もう二度と食べられへん幸造さんの手料理を、
研ちゃんがあたしに作ってちょうだい
と、捨て男の両肩を掴んだおばあさんの指は痛いほどやったって。

いっつもおじいさんの横で静かに笑ってるだけやったおばあさんにこんな強いとこがあったんやなんて。
どこかにフワフワと漂うて消えてしまいそうになってた自分をしっかり掴んで、もういっぺん世界につないでくれた強い力。

どっちにしても行き場がなかった捨て男。
落ち着きどころが見つかるまでのつもりで、お世話になることにした。

「家政婦言うても冗談みたいなもんで。
まだまだ達者やったおばあはんは、身の廻りのことは全部自分でするし、俺は料理をするぐらいで、反対に面倒みてもうて、孫みたいに可愛がってくれてなあ。
俺できること言うたら料理するぐらいやろう。
他に何かおばあはん、喜ばせられへんやろかと思て、前から大ファンやって言うてたジェームスディーンみたいな格好でもして笑わせたろと、ちょっとした冗談みたいなつもりでしたんやけどな。
おばあはん、涙流して笑い転げて喜んでくれてな。
似ても似つかんって。
かいらしなあって、おじいはん、女見る目あるなあって思うたわ。
まあ、俺も女を見る目はあるけどさ。」

ニッと笑う捨て男。

「でも人間ってわからんなあ。
あんな達者に見えたおばあはん、脳溢血であっと言う間に逝ってしもたもんなあ。
前の晩に俺の煮たひじきを食べて、幸造さんが作るのとおんなじ味やって嬉しそうに笑うてたのに。」

そこにおばあさんの姿が見えるかのように、空を仰ぐ捨て男。

「お通夜にも出させてもらえんで、あんなに世話なったおばあはんにきっちり手ぇも合わされんでな。
あっと言う間に追い出されて。
ほんま、ええ歳した男が捨て犬のような気分になってしもて。」

どこに行こうかと途方にくれた捨て男の頭にふと浮かんだのが『福耳』やった。

ほんで、そこでオカンとばったり会うたんや。
やっぱり何かが引き合うたんかなぁ。

大事な人を立て続けに亡くしてしもた捨て男。
死という言葉が持つ冷えた影。

傍らのハチの背中にさわる。
毛皮を通して手の平に伝わってくるハチの暖かさにほっとする。
生きてるって、あったかい。
当たり前のことが心にしみる。

ほんでも、時間はこうしてるうちにもどんどん流れて、いつかは必ず誰でもその冷たい死の淵に立つ日が来る。
どんなに怖くても。
いつかは。

頼りない筏に乗って流されてくだけのような自分の最近を思う。
どんどん変わる周りの景色をぼおっと眺めるだけのような日々。
もう、そろそろ自分の腕で水をかかなあかん時かもしれん。
自分の向かう方向を自分で見ながら。
たとえ辿りつくとこは一緒やったとしても。

はあ、それにしても夜空に浮き上がるような綺麗なお月さん。
笑てるみたい。
今晩、何度目かわからんぐらい、また見上げる。

捨て男も、いつのまにか起きてお座りしてるハチも、一緒に見上げてる。

裏庭にやわらかくふる白い月の光が積もるような晩やった。
それはあたしの心の中にも降り積もり、明るい光を灯すような。

ほんで次の朝、おはようと起きてったら、赤シャツにリーゼントの捨て男は消えてた。
かわりにちょっとロン毛ぎみの髪をポニテにして、ふつうの白いTシャツを着た捨て男が台所におった。
前掛けはいつものままやったけど。
せっかく慣れかけてたのに、また新しい人間が家にきたみたいやった。
おはようさんと笑う顔はそのままやったけど。

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コメント

捨て男 たくさんたくさん 悲しい事経験してきて それと引き換えに 今 小さなあったかい幸せが 近くにあるconfident

きれいなお月様が それを知ってか みんなを 優しく照らしてるねmoon1shine

投稿: こと。 | 2008年4月30日 (水) 13時40分

おじいさんと辛い別れ方をした捨て男、
悲しみのどん底から救ってくれた人まで亡くしてやり切れないですよね。
オカンも今まで辛い思いをしてるし
二人で幸せを掴んで欲しいな〜。

投稿: Bikkyママ | 2008年4月30日 (水) 18時11分

辛いお話一気に読ませていただきました。
捨て男。。本当に悲しい別れを経験してたんですね。
この世にこんな理不尽な事が有るのが切ないです。
せめてこれから幸せをつかんでほしいなっ。

投稿: こむぎママ | 2008年5月 2日 (金) 12時26分

コメントありがとうございます。

オカ嫁もいよいよ大詰めに入ってまいりました。

またお立ち寄りくださいね。

投稿: 咲乃月音 | 2008年5月 2日 (金) 14時31分

生きてるということはほんとすごいことで、捨て男、生きててよかったですね。
なんもかんもはなして、髪型も変わったのが、ふっきれた感じがして
背負ってるものは見えないので、聞いて、はっとしますね。

投稿: かなりん | 2008年5月12日 (月) 15時46分

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