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#27 白無垢着てええ?

竜巻にさらわれるように、気が付いたら一緒になってたオカンと父。

婚姻届を出しにいった次の日、父が職場で倒れた。
腎臓癌やった。
それも末期の。
その週末は二人だけで神社で結婚式もする予定やったのに。

もって半年とお医者さんに言われた日、父はすぐさま別れようとオカンに切りだした。
会ってからの、こわいぐらいの幸せな思い出だけを持って、オカンに生きていってほしい、辛い悲しい思い出をしょわせて残してくような事はしたないって。

その時のオカンが答えたのがこのセリフ。

「悲しいときも辛いときもずっと薫さんの傍にいさせて。
薫さんの残りの人生、あたしに見守らせて。」

って。

「それを知らんはずの研ちゃんが、おんなじようなこと言うのん聞いて、ああ、もしかして、薫さんが引き合わせてくれてんのかなあって思ってさ。」

ほんまにそうなんかもしれへんなと、あたしもふと思う。

蛙の声が聞こえるにはまだまだ早い、サクサクとハチが遠くで土を踏んでたてる以外に静まりかえった田んぼ。
あたしの心の中もおだやかな静けさ。

すうと夜の空気を吸い込む。
冷たくて、ええ気持ち。
あお向いたら、多くはないけど、白く強い光の星がいくつか空に見える。
オカンも一緒に空を見上げる。
子供がするみたいに空を見上げたまま足をブラブラさせるオカン。

「月ちゃん。お母さんも実は聞いてほしいことがあるねんけど。」

そう言うオカンの語尾はちょっとふるえてて、そのふるえがあたしの心に伝わる。

何、何?
ちょっとこわいドキドキ。
ふるふるふるふる。

あお向けてた顔をこっちに向けて、オカンがあたしをじいっと見てるんを横顔で感じる。結構固まるあたし。
そんなあたしが見えてるんか、言いよどむ気配のオカン。
黙る二人の間を田んぼを渡った夜風が吹き抜けてく。

ええ、何?
も、もしかして、もしかして、おめでたとか?
ええっと。
オカンっていくつやったっけ。
確か45?
最近はその年でも産みはる人いてはるって聞くけど。
それより何より、あたし、お姉ちゃんになるわけ?
ああ、どうしよう、妹かな、弟かなと、
どうせなら妹が欲しいけど、女の子は父親に似るっていうし。
捨て男似の女の子・・・うんんん。

ハチと同じぐらいの弾丸スピードでそれこそ地の果てまで行きかけてたあたしの爆想を、オカンの一言が呼びもどした。

「白無垢着てええかな?」

白無垢?
え?
おめでたやなくて、白無垢?
ええと、ほんで、なんで白無垢なん?
と言いかけて、
そうか、結婚するんや、オカン。
そうか、そうか、結婚と結婚式がイコールになってなかったけど。
そうか、結婚するということは、結婚式もするかもしれんってことやってんなぁ。
また目まぐるしく浮かぶ思いの中に、足とられそうになるあたし。
 
すぐに返事をせえへんあたしが反対してると思うたんか

「やっぱりみっともないかなぁ。
かつらなんか被ったら、仮装大賞みたいになってしまうやろか?
でも薫さんの時も結局お式出来へんかったし。」

と顔をくもらせるオカン。

そうか、そんな事いっぺんも言うたことなかったけど、花嫁衣裳に憧れてたオカンの気持ちはあたしもわかる。
あたしもちいちゃい頃からいつかはと思うてるもん。

「ええやん、着たら。仮装大賞でも。」

慌てて答える。

「ええええ、やっぱり、仮装大賞やのん。」

と口とんがらすオカンに

「バカ殿よりましやん。」

と混ぜ返す。

ひゃあ、バカ殿ぉとオカンが笑う。

もちろん、あたしはそんな事を思うてなかったけど。
きっと綺麗なはずのオカンの花嫁姿が、もう頭に浮かんでた。

45の白無垢、仮装大賞、バカ殿、きっついなぁなどと言いもって肩を叩き合うてゲラゲラ笑うあたしらの声にハチももどってきた。

ねえちゃん、おかあちゃん、
何がそんなに楽しいのん?
僕もよしてえなぁ。

二人を見上げてぶんぶん尻尾をふる。
自分も一緒に笑うてるみたいに八ッハッとベロを出しもって。

ふと不思議やなぁと思う。
ほんの一週間もせんうちに捨て男があらわれて、初めは結婚なんてとんでもないって思うてたのに、今はもうオカンの花嫁衣裳のことでこうやって笑うてる。

時間も人間も一瞬として同じとこにはいてへんねんなぁ。
1秒前、いや多分、1分前でも同じようなことを感じてたはずやのに、色んな時がつながって、色んな思いがつながってこうやって流れてく。

あたしらのハイな気持ちが伝わったんか、いつまでも、ぴょんぴょんと跳びまわって、散歩ヒモにつながれたがれへんハチを、やっとのことでつかまえてテクテクテクテク、ちょこちょこちょこちょこと、二人と一匹で家に向かう。

もう一度空を見上げる。
さっきまでぼんやりとしてたお月さんが、今はくっきりと夜空に白く浮かんでた。
綺麗すぎて悲しいぐらいのお月さんが。


ずっとずっと後に思う。

あの晩、オカンが聞いてほしかったことは多分別のことやったんやって。
笑いにごまかして実は言われへんかったこと。
聞いてほしいことがあんねんってちょっとふるえて聞こえたオカンの声の後ろには、ふるえたオカンがやっぱりいてたんやって。

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コメント

もう~
オカンの白無垢なんて!45で白無垢?
って笑って読んでたのに。
最後のそれは何なの?
気になって眠れないやん。

投稿: こむぎママ | 2008年4月16日 (水) 21時48分

オカンが白無垢着てええ?って聞いてきた時
とっても可愛く思えました。
でも本当に言いたかったことってなんだったんだろう。。。
とっても気になります。
あ~そのまますんなり幸せになってほしいんだけど
何かあるんだろうなぁ・・・。

投稿: Bikkyママ | 2008年4月16日 (水) 22時00分

言われへんかったことってなんだったんでしょう。
気になる・・・
白無垢か~女心ですね~
着させてあげてくださいって・・・もう決まっているんだけど・・・

投稿: まりかず | 2008年4月17日 (木) 16時27分

コメントありがとうございます。

白無垢、私も小さいころからの憧れでした。

私はこの物語のオカンより、わずかに早く

39で着ることができましたが、感激でしたねぇ。

またお立ち寄りくださったら嬉しいです。

投稿: 咲乃月音 | 2008年4月18日 (金) 17時49分

あ~~、お母さんの気持ちが、月ちゃんの言葉が、なんともいえません。

投稿: かなりん | 2008年4月21日 (月) 22時33分

コメントありがとうございます。

白無垢、自分も憧れだったんで

オカンの気持ちに同化する部分があります。

またお立ち寄りくださいね。

投稿: 咲乃月音 | 2008年4月23日 (水) 14時20分

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