#38 何で言うてくれへんかったん
何で、何で、言うてくれへんかったん
とやっとのことで声にする。
だって、月ちゃんには一番心配かけたなかってんもんと、うつむいたままのオカン。
出来たら、知られんまま、ある日、ぽっくり逝けたらええなって。
悲しんで、残りの一緒の日が湿っぽくなってしまうよりも、できるだけ最後の最後まで、いつもの通りの母娘でおりたかってんと言うオカン。
「そんなん、そんなん残酷すぎる。
知ってたら、もっともっと、ずっとずっとオカンの傍におったのにって、あたしいつまでも思うてしもて、知らんかった自分を絶対許されへん。」
堰を切ったようにこぼれる言葉。
堰を切ったようにあふれる涙。
「ほんまに、ほんまに、お医者さんの言いはったんはほんまなん?
誤診ってことはあれへん?
別のお医者さんにも診てもうたら、治る道があるかもしれん。」
気がついたらオカンの右手にすがるようにしてるあたし。
神様、もしいてはるんやったら、オカンのこの手をあたしから放さんといて下さい、お願いです。
「他のお医者さんにもな、もう診てもうてん。
同じこと言われた。」
苦しい苦しい声でオカンが言う。
青白い顔に目だけがキラキラ光ってる。
ナガクテ、イチネンデス。
じゃあ、短かったらいつなん。
誰が何でオカンを連れてってしまうのん。
自分の両手の中のオカンの白い右の手の平をぎゅっとつかむ。
こんなにあったかいのに。
こんなに生きてんのに。
オカンいなくならんといて。
いなくなったらアカン。絶対に。
そんなん、みんな許せへんよ。
サク婆もハチも。
そうや捨て男も。
「捨て男は知ってるのん?」
もう誰の死ぬとこも見たないって言うてた捨て男の声を思い出す。
オカンが目をそらす。
知らんのん?
裏庭で肩ふるわせてた捨て男の後姿が浮かぶ。
「知らせんと結婚することにしたん?」
声が大きくふるえる。
そんな、そんな、自分がいつ逝ってしまうかわかれへんのに、お父さんに先立たれた時に自分が味わった気持ちを、捨て男にも味あわせんのん?
オカン、それはあんまりにも殺生や。
捨て男はもう大事な人をなくす辛さは十分味わったのに。
ひどい、オカン、ひどいよ
と知らされてなかった怒りがまたぶり返して、機関銃のように言葉が放たれてしまう。
言うたらアカンって、一番辛いのはオカンやってわかってんのに。
あたしの言葉に射抜かれて、ぐったりと垂れた頭を抱え込むようにして、その場にしゃがみこんで泣き出したオカン。
「だって、だって、こわかったんやもん。
ひとりで最後の日を今日か、明日かって待つのんは、あたしかって、こわかったんやもん。
研ちゃんが、あたしの人生見守らせて下さいって言うてくれた時、そんな風に愛してくれる人と最期の日を一緒に送りたいって思うてしもてんもん。」
嗚咽でとぎれとぎれになりながらのオカンの声。
オカンの心があげた悲鳴のような言葉があたしを打つ。
オカンの傍に這うようにして近寄って肩を抱く。
オカンの身体がふるえてるんか、あたしの身体がふるえてるんか、元はひとつやった身体をおしつけあうようにして、ひとつになってふるえるあたしとオカン。
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コメント
だめです こんな悲しい2人を見てられないです

こんな親子って すごく羨ましく思ってたから。
もっともっと これからの2人が見たかったし。
うちは あったかい親子愛のない家庭だから 自分がこの中にワープして読んでたから 人生それぞれ いろいろなんて 思いたくないょ やりきれないょ
投稿 ふわ | 2008年5月12日 (月) 15時38分
こんなに生きてるのに、っていう一文がグっときました。ほんとにそうです。
いま、こんなに生きてるのに、いなくなる日が来るとは思えないんですよね。
陽子さんの気持ちも痛いです。
投稿 かなりん | 2008年5月12日 (月) 17時10分
『人生見守らせて下さい。』といった捨て男の告白。
最初はサラリと読みましたが
その言葉を聞いた時のオカンの気持ちを
考えると胸につまります。
月ちゃんのも捨て男もオカンもみんな可哀相すぎるわぁ・・・。
でもちゃんと最後まで見守って読みたいと思います。
投稿 Bikkyママ | 2008年5月12日 (月) 21時03分
涙が出てしまった。
投稿 のんちゃん | 2008年5月12日 (月) 22時48分